ほのサスを読む

ニコニコ動画に投稿している「バニラマリンほのぼのサスペンスシリーズ」の解説などをします。

いぶますを読む 第1回

さて、改めましてこんばんは。
いぶます初のブロマガです。

冬馬編11話、加蓮編7話までのネタバレが満載なので、ネタバレが嫌な方はご注意下さい。

今回(冬馬編11話)で、だいたいの伏線は出揃いました。
今さらではありますが、いぶますのストーリーは非常に複雑で、正直何が何だかわからんという方も大勢いらっしゃるでしょう。そうなってしまったのは勿論、私の至らなさではありますが、原作EVE_ZEROがそもそも難解な物語だからというのもあります。そこで、今回はブロマガで物語のわかりにくかったであろう箇所の解説を行いたいと思います。

第一 XTORT考察
まず、本作最大のキーワードと思しき『XTORT』についてです。エクストートと読みます。XTORTは勿論、原作にも登場する要素で、物語上きわめて重要である点も本作と同様です。

冬馬編9話の大山事務部長の証言によると、XTORTとは『クローン技術とナノテクを用いて、移植用の臓器を作り出す研究(冬馬編9話11:25)』だそうです。そして『臓器を作り出すための技術』に過ぎないから『法的にも倫理的にも問題』は『ない』と強調しています(同11:40)。もっとも『まるで夢のような研究』であったために『理論どおりにはいかず失敗に終わ』り、『今現在でも成功例は存在しない』と述べました(同11:53)。

ところが、今回冬馬編11話では、上記大山証言と矛盾する証言が出てきました。かな子は『XTORT』には成功例があったと述べます。曰く『XTORTを使った臓器移植で生還した患者が存在する(冬馬編11話後編25:29)』。そしてその患者は今も『ピンピンして』おり、冬馬も『知っている人』だといいます。

以上を踏まえた上でXTORTに関連する出来事を時系列順に見ていきます。

★昭和43年 仁科心臓移植事件

これは作中時点では既に故人である医師・仁科秀人が日本初の心臓移植手術を行ったものの、最終的に移植を受けた患者(少年だったようですね)は死に至り、失敗に終わったというものです。そして①心臓の提供者は脳死と判定されたものの、実はまだ蘇生が可能であった。②心臓を移植された患者は、直ちに移植手術を必要とするほどの容態ではなかったなどとして、札幌地検殺人罪もしくは業務上過失致死罪の疑いで捜査を行いました(冬馬編11話後編6:00)。その時の担当検事が現・公安調査庁長官、すなわちあの酔っ払いのおっさんです。しかし、結局立件は見送られたようです。

すべてのはじまり……といった様相を呈していますが、要注意点として、この手術は都立医大で行われたものではありません(都立医大はまだ設立されていません)。舞台となったのは北海道の『小樽公立大学』です。したがって、冬馬の父も、シャサ=ノバルティスも、榊原素子・里美姉妹も、雪乃も須藤氏も、そして大山さんも一切関わっていません。
仁科は検察による逮捕・起訴をからくも逃れたものの、やはり世間からは糾弾されたようで、大山さん曰く『居心地が悪くなり』、翌昭和44年、単身で渡米します。そしてフィルブライト医学研究所に籍を置き、分子生物学の手法で移植医療における拒絶反応をコントロールする研究に取り組んだようです。

★昭和48年 都立医大設立・仁科帰国

この年に仁科はアメリカから帰国し、設立直後の都立医大分子生物学講座の教授に就任します。仁科研究室の誕生です。
ところで高畠医師いわく、昭和48年時点で東京に新しい医大は必要なかったのに『無理やり作った』。そこには政治的背景があったようで、都立医大は設立当初『葉室医大』などと揶揄されていたと言います(加蓮編7話前編22:26)。つまり都立医大は葉室の後押しで設立されたようです。さらに仁科は山形出身で葉室と同郷です。このあたりの事実もわりと重要です。

★昭和49年 冬馬父・シャサが都立医大

かな子の証言、すなわち公安庁の調査によると、冬馬の父・天ヶ瀬健とシャサ=ノバルティスは、東大の『素粒子理研究センター』というところから、都立医大へ移って来たとのこと。健は仁科研究室の助教授に就任します。
そして、健とシャサが『XTORTの生みの親』とされています(冬馬編11話後編6:46)。『Book of XTORT』は健の手による論文です。またシャサも『A study of XTORT』なる論文を執筆したといいます(加蓮編7話前編13:28)。二人がXTORTの研究を開始したのは東大にいた頃なのか、都立医大に移ってからなのかはまだ不明ですね。

★昭和53年 里美、都立医大

この年、里美が東大の大学院から研究生として都立医大へ移ってきました。雪乃が都立医大へ来た時期はまだ本編で明言されていませんが、彼女は里美と東大医学部の同期ですから、おそらくこの前後でしょう。

また,須藤医師は都立医大の卒業生だったといいますから、大学設立から6年後に当たる昭和54年以降に卒業している筈です(医学部は6年制)。つまり須藤医師も早ければ54年には仁科研究室に入ったということですね。

さらにもう一人、里美の姉にしてシャサの妻・トアの母である榊原素子。大山さんの話によれば、彼女も仁科研究室の一員でした(冬馬編9話12:18)。ただし研究室に入った時期はまだ不明です。また、大山さんが仁科付の秘書として研究室に入った時期も不明です。

いずれにせよ、昭和53年以降、おそくとも昭和57年までの間に、仁科、健、シャサ、素子、里美、雪乃、須藤、大山の8名が仁科研究室に集ったということになります。

★昭和57年 仁科移植から14年後の『犯罪』

この年は最重要です。
 1.昭和57年の『犯罪』
水本検事いわく『仁科は過去の罪を悔いるどころか(仁科移植から)14年後になる昭和57年……再び同種の犯罪に手を染めた(冬馬編11話後編6:40)』『それは仁科一人の手による犯罪では』なく『XTORTの産みの親ともいえる天ヶ瀬とノバルティス、そして相原、榊原里美、須藤……全員が同罪』である。その上で仁科、健、シャサ、雪乃、里美、須藤の6名を『人命を尊ぶ感情は一片たりとも』持ち合わせない『エゴイズムを極限まで肥大させた科学者たち』とまで罵り、厳しく糾弾しました。
彼ら彼女ら6名は何をしたのかということですが、健とシャサをわざわざ『XTORTの産みの親』として挙げていることからして、それはXTORTに関連する行為だったのでしょう。そしてその行為は犯罪にあたる……。検察官である水本さんがそう断言するのだから、まあ、そうなんでしょう。
しかし上記水本証言に、おやっ?と思った方は多いのではないでしょうか。当該『犯罪』の『犯行メンバー』6名の中に、里美の姉にしてシャサの妻・トアの母である榊原素子が含まれていません(大山さんも含まれていませんが、彼女は事務方ですから直接当事者ではないのでしょう)。素子が失踪したのも昭和57年です。『犯罪』が行われたとき、素子は既に失踪していたために名前が挙げられていないということでしょうか……。
 2.XTORTの『成功例』
ところで、かな子が言っていた『XTORTを使った臓器移植の成功例』はいつのことなのでしょうか。移植手術を受けた患者は生還したといいます。かな子が『執刀したのは仁科と榊原素子じゃない?(冬馬編11話後編1:23)』と言っていることから、素子が失踪した昭和57年以前の出来事であることは間違いないでしょう。
もしかすると、この移植手術が水本検事のいう『昭和57年の犯罪』なのでしょうか。しかし、上述したように、XTORTはそもそも法的に問題のない範囲で『臓器を作り出す』技術です。そのようにして作り出された臓器を移植しても犯罪とはいえなさそうです。
もっとも水本検事は『昭和57年の犯罪』について『未完成の技術の一部』を『試』したものと述べています(冬馬編11話後編6:55)。すなわち、XTORTは本来、法的に問題のない技術・研究であるものの、昭和57年にはまだ未完成であり、そのような未完成の状態で手術に用いたため、何らかの犯罪性を生じさせる結果となったという見方は成り立ちそうです。
 3.天ヶ瀬健の死
なお、健が『Book of XTORT』を書き上げたのも昭和57年です(加蓮編7話前編14:55)。そして交通事故に遭い死亡したのも同年です。

★昭和59年 遺伝研設立

 1.仁科の死・XTORTの挫折
健の死から2年後、遺伝研が設立されます。XTORTのために作られた研究所であると大山さんが明言しています(冬馬編9話12:22)。設立資金は相原製薬とフィルブライトから出ています。この時期、雪乃は既に相原製薬の社長になっています(20代で社長になったとあり、平成4年現在で39歳であるため)。よって相原製薬が出資者になったのは雪乃の意思でしょう。そしてフィルブライトが出資者になった経緯はまだ明確ではありませんが、仁科は仁科移植の後にフィルブライト医学研究所に籍を置いており、その際にできたコネクションなのかもしれません。なお里美も同じフィルブライトの『生物科学研究所』で学んだ経験があります(冬馬編7話3:07)。
しかし、せっかく研究所ができたのもつかの間。その年に仁科は病死します。そしてXTORTの研究は頓挫し、以後、遺伝研でXTORTに関する研究は行われていないといいます(冬馬編9話12:40)。
 2.その後のXTORT
ところで、シャサの証言によると、遺伝研は都立医大と共同で『特殊なタンパク質の働きでヒトの免疫機能を抑制する研究』を行っていた。しかしその研究は『色々あって行き詰』まり、昭和61年頃に相原ファーマテック社に引き取られた(加蓮編5話8:37 同8:50)。以後ファーマテック社においてシャサを中心に研究が進められ、コンピュータのハードウェア技術を導入することで一定の成功を収めたようです(加蓮編5話9:06)。
この研究とXTORTの関係はどうなのでしょうか。この点につき、良いコメントをなさった方がいらっしゃいました。いわく「人工臓器の作成(XTORT)は細胞分化のコントロールだから、免疫抑制とは違う」。そのとおりですね。シャサが進めている研究は、XTORTとイコールではないわけです。もっとも、フレデリカはXTORTの内容について調べると同時に、シャサの研究も欲しています。したがって、両者はまったく無関係のものではないのでしょう。
 3.雪乃の悔恨・遺伝研に遺された『モノ』
遺伝研が設立されて8年、すなわち作中における『現在』である平成4年。遺伝研は解体・消滅の危機にあります。親会社の相原製薬の経営危機により、シャサが在籍するファーマテック社ともどもリストラを通告されたからです。それを回避するため、雪乃が必死に策を講じているようですが、なぜなんでしょう。

シャサ「ファーマテックの廃業は仕方ないとしても、遺伝研は……。“あれ”を設備ごと他の場所へ移す時間的余裕はありません。終わりですね……。やはり我々は何もかも間違っていたんです」
雪乃「終わらせたりしません……。そうでなければ私たちは全員地獄へ落ちます」
(加蓮編7話後編5:40)

少なくとも雪乃とシャサの二人は、過去に反倫理的な『何か』に手を染めていたようです。


第二 公安調査庁
公安庁については今後のストーリーの中で詳細を明らかにしていきたいと思います(足りない部分はいずれしまむらさんに解説してもらいます)。作中で伊織とかな子がいろいろ言っていますが、とりあえずそこは流しておいて下さい。

ここでは二点だけ。

まず一点目として、法務省には本省採用のキャリア官僚もいますが、この人たちはトップである事務次官や主要局長にはなれません。法務省本省の要職はすべて検事によって占められています。キャリアがトップになれない唯一の中央省庁でしょう。

法務省の外局である公安庁も同様で、トップの長官、NO.2の次長、NO.3の総務部長、全員検事です。そして、NO.4の調査第1部長には警察官僚が就きます。桃華ですね。なお、検事は検事の身分のままで法務省内を異動します(充て検といいます)。したがってゆかりも公安庁総務課長であり、かつ検事ということになります。

二点目。公安庁はオウム事件でクローズアップされる前は、たいへんマイナーな官庁でした。完全に不要官庁・無能官庁という扱いだったようです。その理由は明らかで、『本来の』かつ『唯一の』目的を達成したことが一度もなく、また達成できる見込みも皆無だったからです。
この点もいずれ詳しく解説します。


第三 警察の思惑

公安庁の……というより水本検事とむそう氏の思惑は当回で長官が指摘したとおりですが、警察は何考えてるのか謎ですね。邦彦の死亡推定時刻を不自然に長くとっている理由はおそらく次回以降の加蓮編で明らかになりますが、まあ、ご想像のとおりです。

警察の不自然・不条理な動きを、葉室銀からの圧力によるものと考えている視聴者さんが大半かもしれません。確かに、作中でそれを匂わせるような事実がいくつか出てきています。ただし、伴内官房長官「それにしても葉室と警察に一体どんな接点があるんだ? あのバカに警察を動かせるような力なんてないだろ(冬馬編7話26:58)」という台詞は心に留めておいて下さい。あと、前作をご覧になった方には説明不要かと思いますが、あずささんはバカじゃありません。さらに前作で、千早の最終ポストは何だったかということ。これは重要です。


第四 Q&A
Q1.法務省矯正局って何をどう矯正するんだ?怖えぇ
犯罪者を刑務所などの施設に収監し、労務に従事させたり更正プログラムを課したりすることで矯正します。要するに刑務所や少年院などを管理監督するセクションです。
以前、検事ではない法務省キャリアが矯正局長に就任したことが話題になりましたが、今はまた検事のポストに戻ったようです。

Q2.御堂とか出んの?
多分出ません。この時期、彼は日本にいないんじゃないんでしょうか。

Q3.え?テラーの事もう日本知ってんの?
公安庁は知ってるようですが、内調は知らないでしょう。まあ、ZEROにもバーストエラーにも公安庁は登場しませんから、あくまで本作における設定です。

Q4.シリア役は誰だろ?胸的に雫?
シリアも本作には登場しませんよ。バーストエラーの登場人物ですから。雫はまあ、見た感じはシリアと似てますが、悲壮感に欠けますね。アイドルを充てるなら柊志乃さんとかいかがでしょう。もっとも、彼女にも別に悲壮感はないですが……。

Q5.あの酔っ払い検事正じゃねえかよ(公安調査庁長官)
公安庁長官は検事長高等検察庁の長。天皇認証官)一歩手前のポストです。あんな見た目でも順調に出世しているようですね。なお、ゆかりも後に公安庁長官になります(前作最終話後編参照)。

Q6.あぁ、劇場版ドラえもんの歌か(冬馬編11話後編5:50~の曲)
のび太の小宇宙戦争』です。ピリカ星なる惑星の内紛を描いた映画で、ドラたちはクーデターで追放された大統領の側に立ち、大統領を追放した軍事政権と戦うんですが、その軍事政権側の秘密警察がピシア(PCIA)といいました。公安庁の略称はピーシア(PSIA)です。そういう繋がりで、本作における公安庁のテーマ曲という位置づけです。

Q7.バラモスさんの過去は、いずれ明かされるよね?
多分明かされます。家庭環境とか、聖來との関係とかですね。
やはりほのサスシリーズにおけるこの人の存在は大きいので、公安庁幹部としての動きだけではなく、その人間性もクローズアップしていきたいところです。
「私には家族も友人もおりません」と言っていました。つまり、聖來のことは友人と思っていないわけです。憎悪の対象でしかない。バラモスさんを突き動かしているのは、あくまでも憎悪とコンプレックスです。

Q8.原作と比べて源三郎がかっこ悪すぎるw
以前にも説明させていただいたとおり、やってること自体は原作とほとんど変わりません。仕事と家族を捨てて外国へ渡り、その外国政府に雇われて白色テロやスパイ活動に従事し、突然帰国したと思ったらゲーセンで銃をぶっ放し、白い礼服姿で街を徘徊する……と、見る人によってはかっこいいと言えなくもないですが、残念ながら冬馬ややよいやかな子や由愛には、源三郎のかっこよさ、偉大さが理解できないんですね。
なお、原作の小次郎は源三郎を『アルプス山脈のような男』と見ているようです。あまりにも巨大で、はるかに見上げるしかない存在……と。やってることは別に、本作と同じなんですけどね。


第五 まとめ
今回はこんなところです。
冬馬父の死の真相や、榊原素子が失踪した事情など、いろいろ推理してみて下さい。
あと、他に考えてみてほしいこととして、加蓮編の一日の終わりあたりに登場する謎の『???』さん。何者かということについては、まだ未登場の人物であるかもしれませんのでひとまず置くとして、その『???』さんと会話をしていた謎の老婦人(加蓮編7話後編11:54)は誰なのでしょう。それと、警察側の『黒幕』は管警備局長でいいのか。

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ネタバレはご自由にしていただいて構いません(ただ原作にはあまり触れないで下さい)。