第一 序
みなさんこんにちは。
ニコニコのブロマガがサービス終了になってしまったため,ブログでのご挨拶はかなり久しぶりになります。ブロマガでは,動画を視聴する際の補足用に「オホマスを読む」「いぶますを読む」というシリーズの記事を何本か投稿していたんですが,今はもう全部読めなくなってしまいました。
しかしこの間,動画のコメントやメールなどで「ブロマガの記事をもう一度読みたい!」というご要望が少なからずあり,それならばといずれどこかに再掲しようとは思っていたんですが,方法がよくわからなかったため,放置状態になっていました(バックアップは取っていたものの,そこからどうすればいいのかよくわからなかった)。
だけど今ちょっと時間ができたため調べてみたら,そう難しいもんじゃないんですね。ブログを開設→記事のインポートという操作で,きちんと読める状態にできました。(記事に添付していた画像などは引継ぎができず,そこだけ結構手間でしたが)。
というわけで「いぶますを読む」全4回,アップしましたので,興味のある方はご覧ください。
「オホマスを読む」については,画像の張り直しに時間がかかることと,加筆修正したい部分が結構あるので,今しばらくお待ちください。少しずつアップし直していきます。
第二 最新のコメントから
1.おわび
まず申し上げなければならないことは……,
時間が経ちすぎた
ということ……。
第0話にあたるプロローグを投稿したのが2015年の8月。連載開始からやがて9年目です。
昨年12月,最新話となる解決編02話を投稿。
そこに寄せられたコメントに……,
「なぜいきなり統一教会!?」とか
「豊洲の署長って今誰だっけ」とかいうのがあって,
そんなの今までさんざん出てきたでしょ!
……と,一瞬思ったんですけど,考えてみたら,普通そんな何年も前のことをいちいち覚えていませんね。
まことに申し訳ございません。
2.統一教会
名称変更
統一教会は「世界基督教統一神霊協会」の略称です。
「統一協会」と呼ばれることもありますが(日共はこちらを好んで使う),教団自身は「統一教会」と称していました。
しかし,ご存じのとおり統一教会は2015年に名称変更し「世界平和統一家庭連合」となりました。この名称変更は教団の「本国」である韓国ではもっと前に(1994年説と1997年説がある)行われており,日韓間でおおよそ20年のタイムラグがあります。
その理由については報道もされており,みなさんご存じだと思いますのでここでは触れませんが,『いぶます』は1992年が舞台なので,韓国においてもまだ「家庭連合」への名称変更前です。
なので作中では教団に好意的な人もそうでない人も,みんな「統一教会」と呼んでいます。
以上,細かい話ですが,一応申し上げておきます。
霊感商法と捜査2課
ちなみに統一教会の話は加蓮編の3話14:00あたりが初出。警視庁捜査二課が,統一教会をターゲットに霊感商法の取締りをやっていたところ,警察庁から「やりすぎるな」という圧力ともとれる通達があり,同課の幹部が憤慨するというお話。
(その際,故・双葉参事官は「別にいいだろ。言うとおりにしろ」と,まったく取り合わなかった挙句,霊感商法についても「勝手にやらせときゃいいじゃん」という無責任な態度でした。改めて念押ししますが,双葉参事官,別に「正義感の強い人」じゃありません。「反乱」を起こしたのも正義感からとかではなく,あくまで保身のためです。むしろ「正義の味方」扱いされるのを嫌がってすらいました)。
1995年ころ,警視庁公安部が統一教会の摘発に向けて捜査を行っていたところ,「政治の圧力」で沙汰止みにされた……,という疑惑が昨年(令和5年)報道されましたが,加蓮編3話の上記エピソードはその話をモチーフにしているのかというご質問がありました。
答えとしてはノーです。
なんでノーなのかというのは説明すると長くなるので割愛しますが,'95年は「オウム後」,作中時期の'92年は「オウム前」だというのがポイントです。
櫻井部長と統一教会
桃華は,冬馬編16話19:20あたりではっきりと「合同結婚式の成否に日本の未来がかかっており,自分はその大成功を望んでいる」旨述べています。
最新話においても,合同結婚式への期待に加え,文鮮明氏への熱烈なる賛辞を呈しています。
まさに戦後保守の正しい在り方,美しい姿というべきですが,その一方で桃華は「(わたくしは)統一教会に……これといって興味はありませんが(冬馬編16話19:20)」「わたくしは統一教会にさして関心もございません(解決編2話39;00)」などとも述べています。
これまで何度も申し上げましたが,何度も聞かれるので,何度でも繰り返しますけど,桃華は統一教会の「信者」ではありません。ただ統一教会の人々の主張や行いが正しく立派であると思うがゆえに,外野から絶賛しているというだけのことです。
もっと言えば櫻井桃華という人は(千早やおそらく駒田先生などと一緒で),統一教会や天皇や自衛隊それ自体を崇め奉っているというわけではありません。
彼女はあくまで左翼が嫌いなのであり,左翼が嫌がることをしたいというだけです。
統一教会のようなものを過剰に称賛すれば,左翼の人は眉を顰めますよね?(左翼でない人も眉を顰めるかもしれませんが)。
左翼が嫌がるのなら,それは正しいこと。
だからわたくし,どんどんやりますわ!
そのような思いで,櫻井部長は保守の王道を真っ直ぐに歩み続けています。
もはや「説明不要」
統一教会と保守/愛国/右翼勢力との関係性についてですが,いずれ歴史を踏まえつつ丁寧に説明する必要があるとは,思っていました。
令和4年7月8日までは。
「その日」から1年以上を経た今,もう説明の必要はありませんよね。私が説明するまでもなく統一教会と日本社会のかかわり,自民党とのかかわりについての情報は巷に溢れかえっています。
「本編であんなこと言ってる桃華が統一教会の信者じゃないってどういうことだよ?」といった疑問には,「トランプも安倍元首相も,下村さんとか山本朋広議員とかもみんな信者じゃないですよ」と答えればわかりやすいですよね。
こうなると大変楽です。
全世界の平和のために驚くべき功績を残した偉大な人物である韓鶴子世界平和統一家庭連合総裁に感謝を捧げる米国人男性
世界各地の紛争の解決とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力した韓鶴子世界平和統一家庭連合総裁らに敬意を表する日本人男性
3.豊洲署長
だいたいこいつの仕業
別の世界線における浅井署長
彼が豊洲署長であることをあんまりよくわかってなかったという視聴者さんは結構多いのでしょうか。
作中においては,わりと存在感のある人だとは思うんですけどね。
なんといっても……,
調書を改ざんしたり捏造したりで邦彦の死亡推定時刻を操作し(加蓮編8話12:05)
捜査をやめさせるため,杏を逮捕(加蓮編16話19:18)
この,本作における公安警察のいわば二大大作戦は,いずれも千早が発案し,浅井署長が実行させたものです。
とはいえ,浅井さん。やってることのえげつなさのわりには,ファナティックな言動が一切見られず,厭味だったり高圧的だったりするところもなく,加蓮や林さんに対して好意的に接しているためか,視聴者さんには結構人気のよう。
彼に関しては,経歴や私生活における設定もいろいろあるんですが,残りの話数でそうしたことをどれだけ描写できるかは結構微妙なところ。
あすの牧場
ところで,浅井さんのグラは,コーエーの競馬シミュレーションゲーム・ウイニングポスト2のものです。そこでの彼はもちろん警察署長などではなく,馬主です。生産者も兼ねたいわゆるオーナーブリーダーであり「明日野牧場」なる牧場を所有しています。
WPシリーズの登場キャラは,だいたい実在の人物をモチーフにしており,たとえば林さんは,栗東トレーニングセンターの森秀行調教師,管警備局長は「サクラ」の馬主の全演植氏あるいはその子息の全尚烈氏と思われます。少し昔の競馬に詳しい人なら,すぐわかりますね。
しかし浅井芳男氏は誰がモデルなのかよくわからないんですよね。
浅井氏の所有する「明日野牧場」の元ネタはおそらく「那須野牧場」で,これははじめ自民党の河野一郎元副総理の所有でした(ハイセイコー世代のオークス馬・ナスノチグサなどを輩出しています)。一郎の死後は長男の洋平元自民党総裁が相続しますが,洋平が自民党を離党して新自由クラブを立ち上げた際,資金繰りのために売却されました。そのときの買主が浅井さんのモデルとなった人物なのかもしれません。(なお,牧場はその後再び河野家の手に戻り,現在は河野太郎デジタル大臣の弟・二郎氏が代表となっています)。
4.加蓮と聖
聖と和解せよ
解決編2話に大変長いコメントを頂きました。
(可読性確保のため,文意が変わらない程度に語順の入れ替えや誤字脱字等の修正を行っています)
「正しい意見を述べ,正しい行いをする聖を罵倒し,馬鹿にする加蓮が許せない!」
……というなら大いにわかりますけども。
あえて加蓮を庇うなら
ところが,高田少年は勝手にターゲットを変更し,日教組本部に突入するのはやめて,その代わりに,自民党の衆議院議員・葉室銀を銃撃します。幸いにも急所は外れて,葉室は軽傷で済みましたが,高田少年は(おそらく)その場で現行犯逮捕され,その挙句,勾留中に自殺してしまいました。
まずいことに,高田少年は自殺するにあたり遺書を残していました。
お咎めなしで済んだ三人ですが,加蓮はその後外事2課に異動となります。
聖が実際,どういう「悪行」を行っているかは,加蓮編5話13:46~あたりから森久保が語っているとおりなんですが,ざっくり言えば,自分が担当している右翼からお金を受け取って,その見返りに刑事課や交通課に働きかけ,捜査や取締りを免れさせるなどの便宜を図るようなことをしています。
そして一緒に仕事をしていく中で,聖が2年前とまったく変わっておらず,むしろますます「悪事」に手を染めるようになり,思想もいっそうラディカルになり,後悔も反省もまるでないことを知り,改めて嫌悪感を募らせていきます。
加蓮編16話26:56
視聴者の共感を得やすいのはどちらか
聖と加蓮のどちらに肩入れするかというのは人それぞれですが,聖の味方をする人が多いと思います。なんとなれば聖は桃華と同様,徹底して「左翼が嫌い」という,単純で(ある種の人たちにとって)親しみや好感を抱きやすいイデオロギーの持ち主だからです。
加蓮編16話27:54
第三 ストーリー理解のポイント
1.EVE ZEROはそもそも難しい
前置きはこのくらいにして,本題ですが,解決編2話終了時点で,ほぼすべての謎は出揃いました。石塚ら猟奇殺人事件の犠牲者たちが,それぞれ真とトアのどっちに殺された?とか,榊原素子の年齢とか,細かい未詳部分はありますけど,どうでもいいっちゃどうでもいいですね。
気になるのはプロローグから登場して警察庁長官などとコソコソ話したりしてた「???」さんと,その知己らしき謎の老婦人の正体くらいですかね。
「???」さんと謎の老婦人(解決編2話9:03)
だけど,今までのお話,正確に記憶し,理解している視聴者さん,どのくらいいるんでしょう。
たぶん数人いればいい方じゃないかな……。
なんせ投稿者の私ですら,ストーリーの細部までは記憶しきれていませんから。
本作のストーリーが複雑怪奇なのは原作がそうであるからで,私は原作を理解するために,ゲームのバックログ画面をすべてスクショで保存し,それをスマホに入れて持ち歩き,暇を見つけては読み直すということをしていました。
別に「すごいだろ?」と自慢したいわけではなく,ほんとにこのEVE ZEROという作品は難解で,そのくらいしなきゃ理解できないと思います(ちなみに,EVE new generationはもっと難解)。
ということで,以下おさらいの意味で,重要ポイントのみをざっくり解説。
2.XTORTとブリンガー
XTORT
まず「XTORT」。いうまでもなく物語の要です。EVE ZEROは畢竟,これをめぐってのドタバタです。『EVE ZERO公式設定資料集』(ソフトバンクパブリッシング)に収められた「EVE用語辞典」によれば,XTORTとは「拒絶反応を起こさない移植用器官と実験用人体を作るためのクローンとナノテクを使った技術」とされています。『いぶます』においても同じですが,広義にはXTORTを用いたプラン全般を指すこともあります。
『Book of XTORT』
XTORTを用いれば,臓器に限らず,神経であろうと皮膚であろうと,人体のあらゆる器官,組織を作り出せます(加蓮編13話21:56~)。そうして作った器官や組織を組み合わせれば,一個の人体すら作り出せてしまいます。「この方法によれば,初めから成人したクローンを作ることができる。わざわざ赤ん坊から育てなおす必要はない」と源三郎が言っていました(加蓮編11話2:25)。クローンとは普通,赤ん坊の状態で産まれてきますから,いきなり成人のクローンを作れるならすごいですね。
冬馬の父,健が執筆した論文『Book of XTORT』には,そのようなことが書かれています。具体的な内容は加蓮編13話4:25~で高畠医師が説明しています(「タンパク質ロボット」なる技術を用いる話でしたね)。
『A study of XTORT』
クローンというのは本来「同一の遺伝子組成を持つ生物集団」のことだそうです。
私は文系ですのでなんだかよくわかりませんが,「生物集団」とは,コピーされた「個体」の集団に限らず,細胞やDNAの集団をも指すらしく,それによれば「コピーとして生まれた個体」をクローンと呼んで間違いではなさそうです。
すると,クローン人間とは「元になったある人間と同一の遺伝子組成を持つ人間」とでもなるんでしょうが,それはクローン人間がクローン元になった人間と「同一人物」であることを意味しません。なぜなら,クローン元の人間の記憶や経験は,クローンには受け継がれないからです(あたりまえ)。
しかし,逆に言えば「記憶や経験」を受け継がせることができれば,そのクローンは元の人間と「同一人物」と呼び得ます。その方法論について書かれたのが,シャサ・ノバルティス著『A study of XTORT』。これも高畠医師が説明していましたが「情報の共有」なる技術を使うようです。
そしてこの「情報の共有」の効果として,アルカがトアや真に乗り移ったり,加蓮がトアに乗り移ったりしています。
知識や記憶が電波で伝播(解決編2話32:03)
しかも「情報の共有」は場所や時間の制約を受けません(加蓮編13話12:08)。
だから加蓮はコマンド一つで瞬時にトアに乗り移ることができるわけです。
ブリンガー
「ブリンガー」とは,ある特殊な遺伝子の持ち主を指します。そして「ブリンガー」の臓器は,誰に移植しても拒絶反応が起こりません。
「ブリンガー」は当初,理論上の存在に過ぎず,実在していなかったようですが,天ヶ瀬健が仁科研究室のメンバーをはじめとした色々な人を対象に遺伝子操作を行った結果,榊原素子だけが「覚醒」し,「ブリンガー」になったといいます。
「ブリンガー」の遺伝子は子へと受け継がれるらしく,「ブリンガー」の子は「ブリンガー」になります(必ずそうなるのかどうかは不明)。素子の子であるトアは「ブリンガー」であることが確定しているようです。冬馬編16話で判明したとおり,真も素子の子ですから,真も「ブリンガー」である可能性はあります。
この「ブリンガー」の遺伝子を組み込んで臓器を作れば,できた臓器は誰に移植しても拒絶反応が起こりません。XTORTにおける臓器づくりはそのようにして行われます。すなわち「ブリンガー」あってのXTORTと言えるわけですね。
3.榊原三姉妹
政治家の私生児からヤクザの娘へ
榊原素子,榊原里美,村上巴の3人は,葉室銀の私生児でした。
母親は神楽坂の芸者だったといいます(加蓮編12話15:11)。
それを村上会の総長・村上平吉が引き取って認知し,自分の子として育てました。そのへんの詳しい事情は,まだ作中では語られていません。
しかし,三姉妹のうち上二人は医者になり,あと一人も早稲田ですから,かなりきちんとした教育を施されたことは想像に難くありません。上二人に母親の姓である榊原を名乗らせたことは,ヤクザの娘であることをわかりにくくするための配慮であったのかもしれません(実際,美希と伊織は里美が平吉の娘であることを知りませんでした〈冬馬編6話26:11〉)。
榊原素子
三姉妹の長女です。非アイドル。年齢は未設定ですが,次女の里美とは結構歳が離れているかもしれません。長じて心臓外科医になりました。どこの大学出身かは不明。東大医学部でないことは確かです(冬馬編12話29:21)。海外で臓器移植手術を執刀した経験もあります。彼女がいつ仁科研究室に入ったのかも不明ですが、後述する理由から,昭和51年以前となります。昭和48年の仁科研究室設立時に初期メンバーとして入局したのかもしれません。
ところで,真の生年月日は昭和52年9月1日です。すなわち,そこから逆算して昭和51年の冬あたり,実の父である葉室銀に強姦されてしまったということになります。そして真が産まれる。
平松が「15年ほど前,素子は男に乱暴され身籠ったことがある。しかし産むわけにもいかず中絶した」と言っていました(加蓮編12話7:19~)。中絶したというのが嘘だとすれば,これが真を産んだ時の話でしょう。そして妹の巴は,強姦犯の葉室ではなく被害者である素子に怒りを募らせ,彼女を村上邸の一室に監禁し,殴る蹴るの暴行を加えたといいます。
それを聞いた加蓮が,巴を「ゴミみたいな人格」と罵ったのもまあやむをえませんが,巴としては,素子の方から葉室を誘惑したのだという認識だったのかもしれません。そして平松いわく「素子は精神を病んでしまった」。
フレデリカの話はさらにショッキングで,巴は姉を殴る蹴るだけでは飽き足らず,手下に命じて輪姦させたと……(解決編2話33:41)。そして「モトコの精神は完全に破壊され」たと。
このへんの事情をすべてご存じのふじとも先生が,巴を「この世に生きる価値など微塵もない輩(解決編2話10:10)」とまで言い放った所以ですが,「(宗教上の理由で)中絶手術は許せないから,精神的に追い込んで流産させようとした」というのが一応理由ではあるようです(解決編2話39:57)。
巴は古典的・伝統的・封建的な精神を尊ぶことで日本国の存立と発展を確実にしようという人なので,日本固有の精神なかんずくその家族観,貞操観に立脚しつつ,姉への仕打ちを正当化するロジックを持っているに違いありません。
(たとえば,強姦された被害者に「お前に隙があったんだろう」「そんな恰好で歩いてたら,誘ってると思われるに決まってるだろう」などと申し向け,加害者に対してよりも強い非難を浴びせるような思考回路と似ているのではないでしょうか。いわゆる「名誉殺人」も強姦の被害者を対象にすることがあります)。
視聴者の皆さんの中にも,「巴の思い,わかるよ」という方は少なくないと思います。
あと,多分次話で触れられると思うので,ここでは言いませんが,素子の受けた仕打ちを時系列で考えていくと,もう一つグロテスクな疑念が浮かんできます。
榊原里美
本作における怖い亜美をして「怖い」と言わせしめた女・榊原里美。
冬馬編16話21:29
三姉妹の次女で東大医学部卒。姉とは違い,基礎医学の道に進みました。学生時代には小児科医になろうと思っていたけど,周りに止められたと言っていましたね(冬馬編1話21:56)。確かに病院に行って彼女のようなドクターが出てきたら少々不安かも。
もっとも,里美が「変」になったのは,美希いわく「中学の終わり頃」だそうで,それまではもうちょっとマトモだったようです。
冬馬編16話で,真は里美の子ではないことが明かされました。これは里美本人の言ですから,事実なのでしょう。
もっとも,里美は真を「藁の上からの養子(冬馬編16話13:43)」とし,実の子として育てます。その育児ぶりは半ばネグレクトのようにも見受けられますが,里美本人に悪気はないらしく「死んでしまった私の赤ちゃんの生まれ変わり」として大切に思っているようです。
「葉室に“子供を産めない体”にさせられた」(冬馬編16話21:16)
「中学の終わり頃,学校を長期間休んで,戻ってきたらおかしくなっていた」(冬馬編14話30:00)
なんか叙述トリックとかでもない限り,姉と「同じ目」に遭って妊娠したあげく,赤ん坊は死産(あるいは中絶)。その結果,子供が産めない体になってしまった……としか解釈できません。
(なお,里美が中学3年生のころ,巴もまだ中学生か小学生ですから,巴が後年素子に対して行ったような虐待は,里美に対しては行われなかったと考えられます)。
素子の臓器を奪う企みには里美も加担しています。須藤の供述によると,「加担」どころか里美(と雪乃)が言い出しっぺだとの事。
冬馬編12話27:50
あと,大山さんの死体を平然と「始末」させたこととか。
「この人でなし!」(冬馬編15話20:11)
雪乃が憔悴しきってるのと対照的に,里美は全然参った様子がありません。
そんなこんなで「邪悪」という感じではないけど,やはりどこかぶっ壊れた感じはする人です。
村上巴
彼女はどうも,葉室銀の毒牙にはかからなかったようです。好みのタイプではなかったんですかね。
三姉妹の末っ子。昭和47年,早稲田大学に入学,原理研(統一教会)から反憲学連へ。つまり,もと学生運動家です。詳しいことは冬馬編15話で説明されていますが,刑務所での服役を経て,養父・村上平吉の衰弱に乗じ,村上会の「調整役」として実質的首領の地位を獲得しました。そうした権謀術数には長けているのかもしれませんが,経済に疎いようで,いわゆる「経済ヤクザ」になりきれず,組経営を覚醒剤取引に依存させてしまっているといいます(加蓮編12話9:12)。
暴対法の施行とも相まって,警察から徹底的にマークされはじめた村上会に「未来がない」であろうことは平松も承知していましたね。ふじとも先生は「あと3年も持たないでしょう」と仰っていました。加蓮も「そのうち(警察に)潰される」と言い切っています。
破綻回避のため巴をどうにかしなきゃまずいという空気は組全体に流れているふしもありますが,どうしようもないっぽいです。
物語序盤では比較的大人しくみえた巴ですが,回が進むにつれ言動が勇ましくなってきました。葉室に何が何でも首相になってほしいのでしょう。それはイデオロギー的な共感からでもあり,村上会の復興に繋がるという思いからでもあり,また父親への孝,天皇への忠でもあるんでしょう。克く忠に,克く孝に美を済していますね。
ところで,フレデリカは巴をfundamentalistと呼んでいました(解決編2話39:55)。
彼女は聖のこともそう呼んでいます(解決編1話3:30)。
色々な意味のある言葉ですが,アメリカ人が言う場合,キリスト教原理主義のことですね。同性愛や中絶,性教育やいわゆるポリコレに強く反対する保守的なプロテスタント。トランプの支持基盤といえばわかりやすいですか。
フレデリカは統一教会や,聖の信仰するキリスト教シオニズムの新宗教「光の輝き信仰会」を,そのように捉えたのだと思われます。
もっとも,統一教会はあまり中絶禁止を言いません。日本で中絶禁止運動に熱心だった新宗教と言えば生長の家なんですが,巴が学生時代に属した「反憲学連」は,生長の家および生長の家を母胎とする日本青年協議会(青協)の関連団体とされます。巴の中絶禁止主義は,統一教会より青協由来の可能性があります。かな子の「さすが原理と青協のキメラ(解決編2話40:10)」という発言は,そのあたりを捉えたものでしょう。
良い悪いは別にして,巴はやはり思想家としても,運動家としてもひとかどの人物といえます。途中つまずかなければ,衛藤晟一ルートや井脇ノブ子ルートなどに進み,自民党の政治家になるような展開もありえたかも。
巴は生還が確定しているものの,本作終了後の人生は茨の道だった様子……。
しかし,そんな中でも,冬馬編15話の新聞記事からは,苦難の中なお護国の志を失わず,安倍首相(当時)を心から尊敬し,まっすぐに,ひたむきに真正日本人の生きざまを極めんとしている姿が浮かびます。
冬馬編15話1:17
なにひとつ恥じることはない。
ただ,ただ,立派だ。
多くの視聴者さんがそのように感じたに違いないと確信しています。
4.アルカの狂気
中二病,ではない
アルカを中二病とか言った人いますけど,違いますよ。
中二病とは,なんてことはない平凡な一般人なのに,自分がさもアルカのような境遇に置かれているかのように振舞い「私の夢は,体を全て取り戻してここから出ること……それだけさ」などとブツブツ呟くようなのを言うわけでしょう。
アルカは設定とかじゃなく,ガチじゃないですか。
邪気眼は邪気眼など持っていないのにもかかわらず持っているかのように振舞うから邪気眼なのであって,本当にそのような特殊能力を持つ者を中二病と呼ばないでしょう。
なぜ殺たし
さて,その不思議で不幸で謎めいた少女アルカ。
真やトアに乗り移り,母・素子とも意識を共有しながら殺人を重ねたようなのですが,なぜなんでしょう。
怨恨の線から考えてみますと,まず,石塚さんと邦彦くんはXTORTと無関係ですから,素子ファミリーの誰からも怨みをかっておらず,殺されてやむなしと呼べるような事情は見当たりません。
平松は微妙かな。巴が素子を虐待するのを傍観するにとどまり,止めようとまではしなかったっぽいですし,巴とセットで素子に恨まれている可能性は十分ありますよね。
須藤院長は臓器移植手術に立ち会っていたようですし,これは恨まれてもやむない。大山部長もまあ,事務方として手術の準備や後始末を担当していた可能性もあり,なら,やはり仕方がない。
シャサは,次話で触れると思いますけど,ある意味一番殺されて当然といえるかもしれません。
聖はまあ……,加蓮や林さんほどトアに優しくなかったことは間違いありませんが,かといってトアを虐めたとかではありません。だから特別恨まれる筋合いもないのですが,「気に入らないんだよね」の一言で殺されてしまったわけで,さすがに理不尽ではあります。
(この点,「なんで里美を殺さないのか」というコメントがありましたけど,いや,里美を殺したら自分を復活させてくれる人,いなくなっちゃうじゃん……。殺したくても,今はまだ殺せない。同様に,雪乃を殺すのもリスクが大きいでしょうね。)
臓器を奪う理由
「どうして“殺す”のかしら……」(冬馬編14話13:07)
「死体から臓器を取って来てもそんなの使い物にならないって,何度も説明したのに,どうしてわかってくれないのかしら……」(冬馬編14話13:16)
どちらも里美のセリフ。
アルカが殺人を重ね,死体から臓器を奪ってくることに辟易としている様子。
アルカは「身体をすべて取り戻したい」わけで,そのために人を殺し,死体から臓器を奪ってきて「これ,使って!」的なノリで里美に渡したのかも。
ところで,「ブリンガーの臓器を非ブリンガーに移植しても拒絶反応が起こらないというのはわかったが,逆に非ブリンガーの臓器をブリンガーに移植したらどうなるんだ?」という質問がありました。
これ,わかんないんですよね……。
だけど「逆」もイケる,というのであれば,手当たり次第に臓器を奪ってきて,自分に移植しろと迫るのは,そうおかしなことではないということになります。
まあ,でも,無理なんでしょうね。
どうして無理なのかはよくわかりませんが,里美は「そんなの使い物にならない」と言っています。
なので,アルカがやってることは無意味なんですよ。
それは臓器を奪うことだけじゃなく,人を殺すこと自体がそう。
で,何故そんな無意味なことをするのかといえば,それは狂気の表れ。
狂人であるがゆえ,狂ったことをする。
そしてその「狂気」は素子に由来する。
フレデリカはそのように説明していました。
巴に発狂させられてしまった素子は,その狂気でもってアルカの心を支配しているのかもしれません。
第四 次話以降の展望
1.警察に明日はあるか
斜め横断は犯罪ではない
双葉参事官は,斜め横断をしたかどで逮捕されました。
しかし,斜め横断は道交法12条2項で禁止されているものの,罰則がありません。
したがって,斜め横断それ自体は犯罪ではありません。
もっとも,警察官は斜め横断をしている歩行者に対し「規定する通行方法によるべきことを指示することができ」ます(道交法15条)。「まっすぐ渡りなさい!」などと指示できるということですね。
そして,歩行者がその指示に従わなかった場合に「二万円以下の罰金又は科料に処」されます(道交法121条1項7号)。
つまり,斜め横断自体ではなく,「警察官の指示に従わなかったこと」が犯罪なのですが,有罪となっても二万円以下の罰金を科されるにすぎません。
このような,いわゆる「軽微事件」の犯人は,たとえ現行犯であっても原則として逮捕できず,これを逮捕するには特別の要件をみたす必要があります。
具体的には,「現行犯人」であることに加え「犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡する恐れがある場合に限り」現行犯逮捕が許されます(通常逮捕の場合は199条1項ただし書)。
加蓮編17話後編14:15
林班の日之出巡査が杏を逮捕するにあたって「あなたがどこの誰なのかわかりません」というわけのわからないことを言っていたのは,そのような理由によります。
もちろん日之出巡査が,杏がどこの誰なのかわかっていなかったわけがないので,端的にこれは違法逮捕です。
マスコミも馬鹿ではない
こうして日之出巡査は無理やり杏を逮捕。
そして杏は豊洲署へ連行され,地下の駐車場で暴漢に撃たれ死亡。
その後,警察庁は記者会見で「凶悪犯罪の現行犯で逮捕した警察官がなぜか警察署で撃たれました!」といった内容の発表を行ったようです。
しかし,当初杏を「容疑者」として報じていたマスコミは,その容疑が「斜め横断」であるとわかると,杏の呼称を「容疑者」から「警視正」に改め,警察庁や警視庁に疑惑の目を向け始めました。
ぶちきれる最高幹部たち
マスコミの動向を受け,警察庁の我那覇警務局長は「テメーらが能無しだからこんなことになってんだ!(解決編2話7:12)」と,電話で公安第1課長を怒鳴りつけ……,
警視庁の岸川副総監も「逮捕は誤認だった,違法だったって発表しちまいな!(解決編2話41:17)」と総務部長をこれまた怒鳴りつけ。
警察庁NO.3と警視庁NO.2がともにぶちきれています。
ぶちきれているからといって,彼女たちが即,現在進行中の謀略を食い止め,陰謀を暴き,真相を究明すべく動き出すとも思えませんが,千早と浅井さんの計画が綻びを見せ始めたのは間違いありません。
解決編2話は,日本時間で1992年6月2日の夜。
これが朝になれば,何かを決意したらしき新田参事官や森久保課長なども行動を開始するでしょうし,佐久間課長だって大人しく引っ込んではいないでしょう。
どけといわれてどくような やわな根性じゃ男がすたる(解決編1話7:44)
娘にこうまで言われては(解決編1話6:55)
この人は最初から引く気なし。撃ちてし止まむ(加蓮編18話5:04)
「???」さんは改めてすもも長官に会いに行くと言っていましたし。
解決編2話9:01
良い方向に向かうのかどうかはともかく,事態が動き出すのは間違いなさそうです。
2.西南西に進路を取れ
フレデリカ=ミヤモト・ブラッチフォード
みんな大好きフレデリカ。
「ミヤモト・ブラッチフォード」という複姓になっていますが,これは本作の独自設定で,シンデレラガールズ原典においては単に「宮本フレデリカ」。
EVE_ZERO原作の「ルース=ブラッチフォード」という登場人物がだいたいフレデリカと同じ役回りで,ルースをフレデリカに置き換えるにあたって,姓だけ残したという感じですね。
設定を皆さんお忘れかもしれませんが,フレデリカはアメリカの「フィルブライト財団」の会長・シェリダス=フィルブライトの秘書です。冬馬には当初,CIAを名乗っていましたが,それはウソでした。
シェリダス会長は重い病気で,臓器移植が必要なんですが,1992年当時の医学では手術が困難な病状のようです。そこで,おそらくシェリダスの家族あるいは財団の執行部が治療と救命の方法を探していたところ,10年ほど前に資金援助をしたものの,それきりほったらかしにしておいたXTORT計画に行き着いたんでしょうね。
(ほったらかしになった経緯は,加蓮編5話4:56~でシャサが説明しています)。
では,XTORTの力で会長を助けることは本当に可能なのか。
オーソドックスな方法としては,XTORTで作った臓器を会長さんに移植してあげればいいわけです。
しかし,里美は
「理論的にはそうでも,実際にはある程度狙いを定めて培養していくわけですから……,会長さんに適合する組織をすべて揃えるとなると相当な時間が……」(冬馬編15話23:20)
と,あまりいい顔をしません。
そして,続けて怖いことを言い出す。
冬馬編15話23:20
「お姉ちゃん」って誰だろうってずっと言われてましたが,これはもうアルカのことでしょう。アルカの臓器を会長さんに移植すればいいのですが,サイズの問題で無理ということらしいです。
ところで,これは大いなる伏線で,この会話が交わされた翌々日,「お姉ちゃんと体型が似た女性」が大怪我をして意識不明の状態で研究所に運び込まれます。
まあ,「似た体型」と言っても,アルカよりちょっと大きいんですが,そのくらいは許容範囲だったんでしょう。
その女性とは,もちろん加蓮であります。
加蓮の復活とフレデリカの心変わり
加蓮が高円寺のシャサ方で胸部を刺された後,XTORTにより治療され意識を取り戻すまでの経緯は裏シナリオで詳しく描かれると思いますが,瀕死の加蓮を発見し,遺伝研に運ぶよう指示したのはおそらくフレデリカ。
上記のとおり二日前,里美に「お姉ちゃんと似た体型の女性になら,アルカの臓器を移植できるかも」と言われたのを思い出してのことでしょうね。
XTORTが本当にうまくいくのか,ちょうどいい実験になると思ったのかも。
ところで,このタイミングでフレデリカはアルカと初めて対面したんじゃないかな。
そして,アルカがトアや真に乗り移って猟奇殺人を繰り返していたことを知った。
もともとフレデリカは,トアや真に危害を加えることに反対していました。
巴や千早は,トアをエルディアに連れて行って,彼女の臓器をシェリダス会長に移植すればいいじゃないかというような提案をしたんですが,フレデリカは断固として拒否してきましたよね。
美女と鬼畜・その1(加蓮編14話前編21:54)
美女と鬼畜・その2(加蓮編8話1:40)
やさしい……とまで言えるかわかりませんけど,最低限人命を軽んじることはしない主義であったようなフレデリカ。源三郎に対しても,自分はトアと真を連れ去るようなことをするつもりはないと明言していました(冬馬編15話24:24)。それなのに,掌を返すが如く真を拉致してエルディアへと向かっているわけですが,それはやはり,真とトアが(アルカに操られてのこととはいえ)猟奇殺人の犯人であることを知ってしまったためでしょう。
もっとも,本当に真を殺す……というか,臓器を奪う気があるのかどうかまでは不明。
「あの兄妹は日本から離れた方がいい(解決編1話2:35)」などと,真やトアの身を案じるようなことも述べており,殺意や害意のようなものはあまり感じません。
そもそも,アルカ→会長への臓器移植は体格差から難しいかもしれないというのに,真→会長なら可能なのかという疑問もあります。
生きるか死ぬか
冬馬については,冬馬編14話冒頭などから平成31年における生存が確定しています。
なので,殺されるということはありません(かな子もたぶん大丈夫なんじゃないですかね)。
ただ,平成31年の冬馬と真美(亜美の娘らしい)の会話からすると,一連の猟奇殺人事件は,犯人不詳のまま未解決に終わったようです。
平成22年の刑事訴訟法改正により,殺人罪の公訴時効は廃止されましたが,作中時点の平成4年においては,15年と定められていました。
したがって,平成19年に公訴時効が完成しています。
(この点,本件の時効完成前の平成17年の法改正で,殺人罪の公訴時効が15年から25年に延長されたことから,時効完成も平成29年まで先送りされたところ,平成22年の法改正で時効は廃止されたのだから,本件は時効にかからないのではないかとも思えます。しかし,17年改正における時効期間の延長には遡及効がなく,改正法施行前に発生した事件には適用されませんでした。したがって,平成19年に本件は公訴時効になっており,遅くともその時点で捜査は終結しています。)
トアや真,そしてアルカが犯人として検挙されたことはなかったようです。
三人が生還できたのかどうかもわかりません。
解決編2話終了時点で,生還確定,すなわち今後本編が終了するまで死なないと確実にいえる人は,冬馬と百合子,森久保と紗南,聖來とゆかり,伊織と美希,巴,千早,あずさ,桃華,川島さん,美穂,すもも長官あたりかな。
ただ,生還はするものの,その後すぐ死ぬ警察幹部がひとり。
その人が死ぬことでその後の人生が変わる人が何人か。
まあ,千早もその一人ですね。
第五 おわりに
さて,次話ですが,令和6年2/11現在完成度40%といったところ。
急いではいます。
こんなブログ書いてる暇あったらさっさと動画を作れというご意見もありそうですが,動画の理解をたすけるために,やはりあったほうがいいですからね。
それでは今回はここまでです。