ほのサスを読む

ニコニコ動画に投稿している「バニラマリンほのぼのサスペンスシリーズ」の解説などをします。

新・いぶますを読む 第1回

 

第一 序

みなさんこんにちは。

ニコニコのブロマガがサービス終了になってしまったため,ブログでのご挨拶はかなり久しぶりになります。ブロマガでは,動画を視聴する際の補足用に「オホマスを読む」「いぶますを読む」というシリーズの記事を何本か投稿していたんですが,今はもう全部読めなくなってしまいました。

しかしこの間,動画のコメントやメールなどで「ブロマガの記事をもう一度読みたい!」というご要望が少なからずあり,それならばといずれどこかに再掲しようとは思っていたんですが,方法がよくわからなかったため,放置状態になっていました(バックアップは取っていたものの,そこからどうすればいいのかよくわからなかった)。

だけど今ちょっと時間ができたため調べてみたら,そう難しいもんじゃないんですね。ブログを開設→記事のインポートという操作で,きちんと読める状態にできました。(記事に添付していた画像などは引継ぎができず,そこだけ結構手間でしたが)。

というわけで「いぶますを読む」全4回,アップしましたので,興味のある方はご覧ください。

「オホマスを読む」については,画像の張り直しに時間がかかることと,加筆修正したい部分が結構あるので,今しばらくお待ちください。少しずつアップし直していきます。

第二 最新のコメントから

1.おわび

まず申し上げなければならないことは……,

時間が経ちすぎた

ということ……。

 

第0話にあたるプロローグを投稿したのが2015年の8月。連載開始からやがて9年目です。

昨年12月,最新話となる解決編02話を投稿。

そこに寄せられたコメントに……,

 

 「なぜいきなり統一教会!?」とか

 豊洲の署長って今誰だっけ」とかいうのがあって,

 

そんなの今までさんざん出てきたでしょ!

 

……と,一瞬思ったんですけど,考えてみたら,普通そんな何年も前のことをいちいち覚えていませんね。

まことに申し訳ございません。

 

2.統一教会

名称変更

統一教会は「世界基督教統一神霊協会」の略称です。

「統一会」と呼ばれることもありますが(日共はこちらを好んで使う),教団自身は「統一会」と称していました。

しかし,ご存じのとおり統一教会は2015年に名称変更し「世界平和統一家庭連合」となりました。この名称変更は教団の「本国」である韓国ではもっと前に(1994年説と1997年説がある)行われており,日韓間でおおよそ20年のタイムラグがあります。

その理由については報道もされており,みなさんご存じだと思いますのでここでは触れませんが,『いぶます』は1992年が舞台なので,韓国においてもまだ「家庭連合」への名称変更前です。

なので作中では教団に好意的な人もそうでない人も,みんな「統一教会」と呼んでいます。

以上,細かい話ですが,一応申し上げておきます。

 

霊感商法と捜査2課

ちなみに統一教会の話は加蓮編の3話14:00あたりが初出。警視庁捜査二課が,統一教会をターゲットに霊感商法の取締りをやっていたところ,警察庁から「やりすぎるな」という圧力ともとれる通達があり,同課の幹部が憤慨するというお話。

 

(その際,故・双葉参事官は「別にいいだろ。言うとおりにしろ」と,まったく取り合わなかった挙句,霊感商法についても「勝手にやらせときゃいいじゃん」という無責任な態度でした。改めて念押ししますが,双葉参事官,別に「正義感の強い人」じゃありません。「反乱」を起こしたのも正義感からとかではなく,あくまで保身のためです。むしろ「正義の味方」扱いされるのを嫌がってすらいました)

 

1995年ころ,警視庁公安部が統一教会の摘発に向けて捜査を行っていたところ,「政治の圧力」で沙汰止みにされた……,という疑惑が昨年(令和5年)報道されましたが,加蓮編3話の上記エピソードはその話をモチーフにしているのかというご質問がありました。

答えとしてはノーです。

なんでノーなのかというのは説明すると長くなるので割愛しますが,'95年は「オウム後」,作中時期の'92年は「オウム前」だというのがポイントです。

 

櫻井部長と統一教会

桃華は,冬馬編16話19:20あたりではっきりと「合同結婚式の成否に日本の未来がかかっており,自分はその大成功を望んでいる」旨述べています。

 

 

最新話においても,合同結婚式への期待に加え,文鮮明氏への熱烈なる賛辞を呈しています。

まさに戦後保守の正しい在り方,美しい姿というべきですが,その一方で桃華は「(わたくしは)統一教会に……これといって興味はありませんが(冬馬編16話19:20)」「わたくしは統一教会にさして関心もございません(解決編2話39;00)」などとも述べています。

これまで何度も申し上げましたが,何度も聞かれるので,何度でも繰り返しますけど,桃華は統一教会の「信者」ではありませんただ統一教会の人々の主張や行いが正しく立派であると思うがゆえに,外野から絶賛しているというだけのことです。

もっと言えば櫻井桃華という人は(千早やおそらく駒田先生などと一緒で),統一教会天皇自衛隊それ自体を崇め奉っているというわけではありません。

彼女はあくまで左翼が嫌いなのであり,左翼が嫌がることをしたいというだけです。

統一教会のようなものを過剰に称賛すれば,左翼の人は眉を顰めますよね?(左翼でない人も眉を顰めるかもしれませんが)。

 左翼が嫌がるのなら,それは正しいこと。

 だからわたくし,どんどんやりますわ!

そのような思いで,櫻井部長は保守の王道を真っ直ぐに歩み続けています。

 

もはや「説明不要」

統一教会と保守/愛国/右翼勢力との関係性についてですが,いずれ歴史を踏まえつつ丁寧に説明する必要があるとは,思っていました。

令和4年7月8日までは。

「その日」から1年以上を経た今,もう説明の必要はありませんよね。私が説明するまでもなく統一教会と日本社会のかかわり,自民党とのかかわりについての情報は巷に溢れかえっています。

「本編であんなこと言ってる桃華が統一教会の信者じゃないってどういうことだよ?」といった疑問には,「トランプも安倍元首相も,下村さんとか山本朋広議員とかもみんな信者じゃないですよ」と答えればわかりやすいですよね。

こうなると大変楽です。

 

全世界の平和のために驚くべき功績を残した偉大な人物である韓鶴子世界平和統一家庭連合総裁に感謝を捧げる米国人男性

 

世界各地の紛争の解決とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力した韓鶴子世界平和統一家庭連合総裁らに敬意を表する日本人男性

 

3.豊洲署長

だいたいこいつの仕業

作中現在の豊洲署長は浅井芳男警視正です。

別の世界線における浅井署長

 

彼が豊洲署長であることをあんまりよくわかってなかったという視聴者さんは結構多いのでしょうか。

作中においては,わりと存在感のある人だとは思うんですけどね。

なんといっても……,

調書を改ざんしたり捏造したりで邦彦の死亡推定時刻を操作し(加蓮編8話12:05)

 

捜査をやめさせるため,杏を逮捕(加蓮編16話19:18)
この,本作における公安警察のいわば二大大作戦は,いずれも千早が発案し,浅井署長が実行させたものです。

とはいえ,浅井さん。やってることのえげつなさのわりには,ファナティックな言動が一切見られず,厭味だったり高圧的だったりするところもなく,加蓮や林さんに対して好意的に接しているためか,視聴者さんには結構人気のよう。

彼に関しては,経歴や私生活における設定もいろいろあるんですが,残りの話数でそうしたことをどれだけ描写できるかは結構微妙なところ。

 

あすの牧場

ところで,浅井さんのグラは,コーエーの競馬シミュレーションゲームウイニングポスト2のものです。そこでの彼はもちろん警察署長などではなく,馬主です。生産者も兼ねたいわゆるオーナーブリーダーであり「明日野牧場」なる牧場を所有しています。

WPシリーズの登場キャラは,だいたい実在の人物をモチーフにしており,たとえば林さんは,栗東トレーニングセンター森秀行調教師,管警備局長は「サクラ」の馬主の全演植氏あるいはその子息の全尚烈氏と思われます。少し昔の競馬に詳しい人なら,すぐわかりますね。

しかし浅井芳男氏は誰がモデルなのかよくわからないんですよね。

浅井氏の所有する「明日野牧場」の元ネタはおそらく「那須野牧場」で,これははじめ自民党河野一郎元副総理の所有でした(ハイセイコー世代のオークス馬・ナスノチグサなどを輩出しています)。一郎の死後は長男の洋平元自民党総裁が相続しますが,洋平が自民党を離党して新自由クラブを立ち上げた際,資金繰りのために売却されました。そのときの買主が浅井さんのモデルとなった人物なのかもしれません。(なお,牧場はその後再び河野家の手に戻り,現在は河野太郎デジタル大臣の弟・二郎氏が代表となっています)。

 

4.加蓮と聖

聖と和解せよ

解決編2話に大変長いコメントを頂きました。

(可読性確保のため,文意が変わらない程度に語順の入れ替えや誤字脱字等の修正を行っています)

今だからこそ話すけど,狂人だと承知の上で,一年前の聖の最期は流石に哀れだし可哀想だと思ったよ。加蓮編17話前編での刺されるシーンね。正確には,死んだ事が哀れというより「そこまで言う事ないんじゃないか?」って,加蓮に向いたヘイトの方が強かった。視聴者の自分の目線だと,聖はいぶますが始まった8年以上前の頃から加蓮とコンビ組んでた長年の腐れ縁みたいなイメージだったから,作中でどんどん険悪なムードになって,加蓮の聖に対する罵倒が酷くなってきた事が残念だった。あの回だけで,昔の千早が10年かけて貯めてきたヘイトに匹敵するくらい,加蓮にヘイト溜まったように自分は感じた。しかもそれで永遠の別れになったんだからたまったもんじゃない。刺される最後の話で,聖の事「キ◯◯イ」とか「クズ」呼ばわりした時は初めて加蓮の事嫌いになったもん。それが事実だとしてもね。加蓮と聖、改心はないなとしても喧嘩別れしたままにせず和解くらいはしてほしかったというのがオホマスの頃から10年以上付き合ってきた一視聴者としての本音でした。
 
ええと……,
聖が「狂人だと承知」していて,加蓮による「キ〇〇イ」「クズ」呼ばわりもある程度「それが事実」と思っていらっしゃるんですよね?
ちょっと頑固な人とか,ちょっと言い方がキツい人とか,そんなレベルではなく「狂人」とまで仰るんですよね?
その上,「改心」する見込みもないとお考えなんでしょう?
そこまで聖の言動に否定的な人が,ほぼ一方的に聖に同情し,ほぼ一方的に加蓮を毛嫌いするというのは,やや不思議に思えます。
 
これが逆に,聖のイデオロギーに共感し,その言動を肯定的に受け止めた上で,

「正しい意見を述べ,正しい行いをする聖を罵倒し,馬鹿にする加蓮が許せない!」

……というなら大いにわかりますけども。

 

なお,加蓮は大変真面目で仕事熱心な人なので,いかに聖を嫌っていても,仕事を進める上で必要な最小限度のコミュニケーションはとってきました。
聖を外すよう林さんに進言したのも,単に聖が嫌いだからということではなく,聖の言動が林班の任務に支障をきたすと判断したためです(口が軽すぎることや,刑事部門への挑発的行動,視察対象との過度な癒着などが理由)。
加蓮は良くも悪くも常識人です。
テロを主導したり,ヤクザからお金をもらったりしている警察官と和解し,心を通じ合わせるなんて,加蓮にとって「常識的」な行為ではないんですよ。
だから,和解はしません。
 
もっとも,どのような事情のもと,どのような人に対してであれ「キチガイ」や「クズ」などと罵倒するのはよくないというご意見なら,それにはある程度同意します。端的にハラスメントですし。
30年も前の警察なんて,今とは比べ物にならないくらいハラスメントが横行する世界だったでしょうから,加蓮みたいな人も珍しくはなかったでしょう。
そのような人や行為に批判を加えることも大切であるとは思います。
 
あえて加蓮を庇うなら
ところで,そもそも何故加蓮が聖を嫌悪するようになったかというと……,
 
 
加蓮編3話の冒頭で触れられているとおり,検挙実績を上げるために聖が計画したマッチポンプが発端です。
作品本編の2年前……つまり,平成2年。聖は高田直哉なる右翼少年に,一ツ橋の日本教育会館(日教組本部)を襲撃するようけしかけました。襲撃したところを現行犯逮捕することで,自分の手柄にしようとしたんですけど,実行させるにあたり拳銃の携行まで許したといいますから,かなり過激なやり口です。
これについて加蓮は「私は明確に異を唱えなかったし,理事官もそうした行為を黙認していた(加蓮編14話前編4:52)」としています。加蓮も林さんも,明に暗に加担したということですね。
ところが,高田少年は勝手にターゲットを変更し,日教組本部に突入するのはやめて,その代わりに,自民党衆議院議員・葉室銀を銃撃します。幸いにも急所は外れて,葉室は軽傷で済みましたが,高田少年は(おそらく)その場で現行犯逮捕され,その挙句,勾留中に自殺してしまいました。
 
 
加蓮編14話前編4:35

まずいことに,高田少年は自殺するにあたり遺書を残していました。
それには,自分が犯行に至った経緯が,聖に日教組襲撃をそそのかされたことなども含め,詳細に記されていました。
与党の大物政治家が銃撃された事件の背後に,公安による謀略があったとわかると,さすがに警察内部でも大問題になったようです。
 
加蓮も当然,取調べを受ける(加蓮編3話1:20)

大問題にはなったものの,こんな話を公にできるわけがない……と,当時の警察上層部(おそらく,警備局長であった我那覇響警視監)は判断したのでしょう。
葉室銀暗殺未遂事件は被疑者の死亡で幕引きとなり,裏事情はすべて隠蔽されました。
当時の警視庁公安部長・小日向美穂警視監は更迭されましたが,「実行犯」たる聖をはじめ,加蓮も林さんもお咎めなしで済んだようです。
 
 
加蓮編5話15:55

咎めなしで済んだ三人ですが,加蓮はその後外事2課に異動となります。
なぜ異動になったかは作中では特に語られていませんが,懲罰的人事というわけではありません。
加蓮はもう公安3課に嫌気がさしていたでしょうから,本人にしてみれば丁度良かったのかも。
他方,そのまま公安3課に残った聖は,自重するどころかさらに勢いづき,その奔放ぶりを加速させていきます。
 
加蓮編5話13:50

聖が実際,どういう「悪行」を行っているかは,加蓮編5話13:46~あたりから森久保が語っているとおりなんですが,ざっくり言えば,自分が担当している右翼からお金を受け取って,その見返りに刑事課や交通課に働きかけ,捜査や取締りを免れさせるなどの便宜を図るようなことをしています。
そうやって集めたお金を自分名義の銀行口座にプールして,その残高が一億円近くになっているとか,亜美と結託して右翼団体を立ち上げさせたりとかもしていますが,森久保はそうした事実を全部把握していながらほぼ黙認しています。
むろん聖自身も,そのような行為を行っていることを隠そうとしていません。
正しい目的で正しいことをしていることを隠す必要なんかないからです。
 
そんなこんなで公安3課で自由奔放にやってきた聖と,外事2課で北朝鮮の動向調査などをやっていた加蓮ですが,お互い2年ぶりに再会し,今回の特務に就くことになります。
 
プロローグ6:00

そして一緒に仕事をしていく中で,聖が2年前とまったく変わっておらず,むしろますます「悪事」に手を染めるようになり,思想もいっそうラディカルになり,後悔も反省もまるでないことを知り,改めて嫌悪感を募らせていきます。

毎月納めさせている上納金とは別の足代を受領する聖(加蓮編9話3:52)
 
 
国民が安心して暮らすことができる社会をつくるため保守中道の立場から国益を見据えた提言を行う聖(加蓮編12話21:05)

ところで,加蓮が警察官になったそもそもの動機は,わりと純粋なものでした。
 
 

加蓮編16話26:56

 
彼女は,公安や刑事よりもむしろミニパトや派出所(交番)勤務といった「おまわりさん」的な仕事にやりがいを感じるタイプのようです。
それなのに,わけのわからない部署に配属され,わけのわからない先輩の手引きで犯罪まがいの行為……というか,明確な犯罪に加担させられ,そのせいで死傷者も出ました。とりわけ,少年の命が失われたことは大きなショックだったようです。
処分は免れたものの,「ラッキー♪」なんて気分にはなれなかったでしょう。「親切でやさしい婦警さんになりたいな (〃∇〃)」というささやかな夢は,無残に打ち砕かれました。
そして配置換えで一度は聖と袂を分かつことになったものの,再びわけのわからない理由でコンビを組まされ,昔以上の「悪事」をまざまざと見せつけられています。苦言を呈しても,いっさい聞く耳を持ちませんし,上司に相談しても優柔不断で何もしてくれません。
こんな事情の下で,聖に優しくしろとか,聖と和解しろとか言っても,無理ですし,そうするメリットも皆無でしょう。
 
視聴者の共感を得やすいのはどちらか

聖と加蓮のどちらに肩入れするかというのは人それぞれですが,聖の味方をする人が多いと思います。なんとなれば聖は桃華と同様,徹底して「左翼が嫌い」という,単純で(ある種の人たちにとって)親しみや好感を抱きやすいイデオロギーの持ち主だからです。

 「左翼が嫌い」
これは「学術的に定義・区別されるところの左翼」に対する批判というようなものではありません。
X(旧Twitter)やYouTube等を探せば山ほど発見できる,朝日新聞東京新聞,(国民民主党,参政党など以外の)野党,創価学会公明党,中国や韓国,フェミニストやビーガン,アニメや漫画やゲーム等に登場する美少女等を特にそれらを愛好する人たちにとって魅力的に描いたポスターや看板等が公共施設等に掲示や設置等されることを好ましく思わない人たち等に対する素朴な怒りや憎しみの感情です。
また,聖や桃華はやたらに日教組への敵意を露わにしますが,そこにいう日教組は必ずしも「実在の教職員組合としての日教組に限らず,上に列挙した「なんとなくサヨクっぽいやつら」全般を指していることもあります。(聖はベテランの公安専務員ですからさすがに心得ているでしょうけど,桃華は日教組が正確にどんな団体かわかってないかもしれません。共産党の一派とか思ってるかも)。
 
そのような思いや覚悟を胸に秘め,誠心誠意職務に取り組む聖をボロクソに罵倒する加蓮はといえば,おそらく加蓮編18話冒頭で示した,すぎやまこういち氏が言うところの「反日」です。
自分でも言ってますしね。
 

加蓮編16話27:54
 
加蓮は新聞を購読しています。たぶん朝日か読売。もしかしたら毎日かもしれませんけど,産経でないことは確かです。
加蓮は,最低限朝日や読売などの新聞を購読し,テレビでNHKなどのニュースをみていれば,社会の動向を十分知ることができ,世界日報大紀元などの保守メディア,HanadaやWiLLなどの保守論壇誌,ネットの保守系まとめサイトyoutubeyahoo!ニュースやニコニコニュースのコメント欄,Xの保守系アカウントのポストなど見なくていいと思っているような人なのです。
まあ,ネットがない時代だからね……と,苦笑する視聴者さんもいらっしゃるかもしれませんが,では,ネットがない時代にあって保守的観点からの真実(聖によると「霊的真実」)を知るための資料といえる渡部昇一谷沢永一,あるいは小林よしのり等の著書を加蓮に薦めたらどうなるかといえば,タイトルを見ただけで鼻で笑い,読もうとすらしないと思われます。
南京大虐殺はあったと考えているでしょうし,慰安婦への補償も行ってやむなしと思っているでしょう。自民党より社会党の方がマシと思っているかもしれませんし,政治家が靖国神社を参拝することも快くは思わないでしょう。現代においてなら,選択的夫婦別姓制度やLGBTの権利拡大などにも賛成しかねません。
つまり,当世風にいえば「パヨク」ですが,呼び方はどうあれ,聖とは決して相容れないタイプです。
繰り返しますが,加蓮編は(すぎやまこういち氏が言うところの)日本軍VS反日軍の戦いです。そしてニコニコ動画ユーザーであるところの皆さんの多くは日本軍でしょう(ですよね?)。
そうであるなら,強いてどちらかを選べといわれれば,加蓮より聖に肩入れする人の方が多いであろうと思っています。
 

第三 ストーリー理解のポイント

1.EVE ZEROはそもそも難しい

前置きはこのくらいにして,本題ですが,解決編2話終了時点で,ほぼすべての謎は出揃いました。石塚ら猟奇殺人事件の犠牲者たちが,それぞれ真とトアのどっちに殺された?とか,榊原素子の年齢とか,細かい未詳部分はありますけど,どうでもいいっちゃどうでもいいですね。

気になるのはプロローグから登場して警察庁長官などとコソコソ話したりしてた「???」さんと,その知己らしき謎の老婦人の正体くらいですかね。

「???」さんと謎の老婦人(解決編2話9:03)

 

だけど,今までのお話,正確に記憶し,理解している視聴者さん,どのくらいいるんでしょう。

たぶん数人いればいい方じゃないかな……。

なんせ投稿者の私ですら,ストーリーの細部までは記憶しきれていませんから。

 

本作のストーリーが複雑怪奇なのは原作がそうであるからで,私は原作を理解するために,ゲームのバックログ画面をすべてスクショで保存し,それをスマホに入れて持ち歩き,暇を見つけては読み直すということをしていました。

別に「すごいだろ?」と自慢したいわけではなく,ほんとにこのEVE ZEROという作品は難解で,そのくらいしなきゃ理解できないと思います(ちなみに,EVE new generationはもっと難解)。

 

ということで,以下おさらいの意味で,重要ポイントのみをざっくり解説。

 

2.XTORTとブリンガー

XTORT

まず「XTORT」。いうまでもなく物語の要です。EVE ZEROは畢竟,これをめぐってのドタバタです。『EVE ZERO公式設定資料集』(ソフトバンクパブリッシング)に収められた「EVE用語辞典」によれば,XTORTとは「拒絶反応を起こさない移植用器官と実験用人体を作るためのクローンとナノテクを使った技術」とされています。『いぶます』においても同じですが,広義にはXTORTを用いたプラン全般を指すこともあります。

 

『Book of XTORT』

XTORTを用いれば,臓器に限らず,神経であろうと皮膚であろうと,人体のあらゆる器官,組織を作り出せます(加蓮編13話21:56~)。そうして作った器官や組織を組み合わせれば,一個の人体すら作り出せてしまいます。「この方法によれば,初めから成人したクローンを作ることができる。わざわざ赤ん坊から育てなおす必要はない」と源三郎が言っていました(加蓮編11話2:25)。クローンとは普通,赤ん坊の状態で産まれてきますから,いきなり成人のクローンを作れるならすごいですね。
冬馬の父,健が執筆した論文『Book of XTORT』には,そのようなことが書かれています。具体的な内容は加蓮編13話4:25~で高畠医師が説明しています(「タンパク質ロボット」なる技術を用いる話でしたね)。

 

『A study of XTORT』

クローンというのは本来「同一の遺伝子組成を持つ生物集団」のことだそうです。

私は文系ですのでなんだかよくわかりませんが,「生物集団」とは,コピーされた「個体」の集団に限らず,細胞やDNAの集団をも指すらしく,それによれば「コピーとして生まれた個体」をクローンと呼んで間違いではなさそうです。

すると,クローン人間とは「元になったある人間と同一の遺伝子組成を持つ人間」とでもなるんでしょうが,それはクローン人間がクローン元になった人間と「同一人物」であることを意味しません。なぜなら,クローン元の人間の記憶や経験は,クローンには受け継がれないからです(あたりまえ)。

しかし,逆に言えば「記憶や経験」を受け継がせることができれば,そのクローンは元の人間と「同一人物」と呼び得ます。その方法論について書かれたのが,シャサ・ノバルティス著『A study of XTORT』。これも高畠医師が説明していましたが「情報の共有」なる技術を使うようです。

 

そしてこの「情報の共有」の効果として,アルカがトアや真に乗り移ったり,加蓮がトアに乗り移ったりしています。

知識や記憶が電波で伝播(解決編2話32:03)

 

しかも「情報の共有」は場所や時間の制約を受けません(加蓮編13話12:08)。

だから加蓮はコマンド一つで瞬時にトアに乗り移ることができるわけです。

 

ブリンガー

「ブリンガー」とは,ある特殊な遺伝子の持ち主を指します。そして「ブリンガー」の臓器は,誰に移植しても拒絶反応が起こりません。
「ブリンガー」は当初,理論上の存在に過ぎず,実在していなかったようですが,天ヶ瀬健が仁科研究室のメンバーをはじめとした色々な人を対象に遺伝子操作を行った結果,榊原素子だけが「覚醒」し,「ブリンガー」になったといいます。
「ブリンガー」の遺伝子は子へと受け継がれるらしく,「ブリンガー」の子は「ブリンガー」になります(必ずそうなるのかどうかは不明)。素子の子であるトアは「ブリンガー」であることが確定しているようです。冬馬編16話で判明したとおり,真も素子の子ですから,真も「ブリンガー」である可能性はあります。
この「ブリンガー」の遺伝子を組み込んで臓器を作れば,できた臓器は誰に移植しても拒絶反応が起こりません。XTORTにおける臓器づくりはそのようにして行われます。すなわち「ブリンガー」あってのXTORTと言えるわけですね。

 

3.榊原三姉妹

政治家の私生児からヤクザの娘へ

榊原素子,榊原里美,村上巴の3人は,葉室銀の私生児でした。

母親は神楽坂の芸者だったといいます(加蓮編12話15:11)。

それを村上会の総長・村上平吉が引き取って認知し,自分の子として育てました。そのへんの詳しい事情は,まだ作中では語られていません。

しかし,三姉妹のうち上二人は医者になり,あと一人も早稲田ですから,かなりきちんとした教育を施されたことは想像に難くありません。上二人に母親の姓である榊原を名乗らせたことは,ヤクザの娘であることをわかりにくくするための配慮であったのかもしれません(実際,美希と伊織は里美が平吉の娘であることを知りませんでした〈冬馬編6話26:11〉)。

 

榊原素子

三姉妹の長女です。非アイドル。年齢は未設定ですが,次女の里美とは結構歳が離れているかもしれません。長じて心臓外科医になりました。どこの大学出身かは不明。東大医学部でないことは確かです(冬馬編12話29:21)。海外で臓器移植手術を執刀した経験もあります。彼女がいつ仁科研究室に入ったのかも不明ですが、後述する理由から,昭和51年以前となります。昭和48年の仁科研究室設立時に初期メンバーとして入局したのかもしれません。

ところで,真の生年月日は昭和52年9月1日です。すなわち,そこから逆算して昭和51年の冬あたり,実の父である葉室銀に強姦されてしまったということになります。そして真が産まれる。

平松が「15年ほど前,素子は男に乱暴され身籠ったことがある。しかし産むわけにもいかず中絶した」と言っていました(加蓮編12話7:19~)。中絶したというのが嘘だとすれば,これが真を産んだ時の話でしょう。そして妹の巴は,強姦犯の葉室ではなく被害者である素子に怒りを募らせ,彼女を村上邸の一室に監禁し,殴る蹴るの暴行を加えたといいます。

それを聞いた加蓮が,巴を「ゴミみたいな人格」と罵ったのもまあやむをえませんが,巴としては,素子の方から葉室を誘惑したのだという認識だったのかもしれません。そして平松いわく「素子は精神を病んでしまった」。

フレデリカの話はさらにショッキングで,巴は姉を殴る蹴るだけでは飽き足らず,手下に命じて輪姦させたと……(解決編2話33:41)。そして「モトコの精神は完全に破壊され」たと。

このへんの事情をすべてご存じのふじとも先生が,巴を「この世に生きる価値など微塵もない輩(解決編2話10:10)」とまで言い放った所以ですが,「(宗教上の理由で)中絶手術は許せないから,精神的に追い込んで流産させようとした」というのが一応理由ではあるようです(解決編2話39:57)。

巴は古典的・伝統的・封建的な精神を尊ぶことで日本国の存立と発展を確実にしようという人なので,日本固有の精神なかんずくその家族観,貞操観に立脚しつつ,姉への仕打ちを正当化するロジックを持っているに違いありません。

(たとえば,強姦された被害者に「お前に隙があったんだろう」「そんな恰好で歩いてたら,誘ってると思われるに決まってるだろう」などと申し向け,加害者に対してよりも強い非難を浴びせるような思考回路と似ているのではないでしょうか。いわゆる「名誉殺人」も強姦の被害者を対象にすることがあります)。

 

視聴者の皆さんの中にも,「巴の思い,わかるよ」という方は少なくないと思います。

 

あと,多分次話で触れられると思うので,ここでは言いませんが,素子の受けた仕打ちを時系列で考えていくと,もう一つグロテスクな疑念が浮かんできます。

 

榊原里美

本作における怖い亜美をして「怖い」と言わせしめた女・榊原里美。

 

冬馬編16話21:29

 

三姉妹の次女で東大医学部卒。姉とは違い,基礎医学の道に進みました。学生時代には小児科医になろうと思っていたけど,周りに止められたと言っていましたね(冬馬編1話21:56)。確かに病院に行って彼女のようなドクターが出てきたら少々不安かも。

もっとも,里美が「変」になったのは,美希いわく「中学の終わり頃」だそうで,それまではもうちょっとマトモだったようです。

 

冬馬編16話で,真は里美の子ではないことが明かされました。これは里美本人の言ですから,事実なのでしょう。

もっとも,里美は真を「藁の上からの養子(冬馬編16話13:43)」とし,実の子として育てます。その育児ぶりは半ばネグレクトのようにも見受けられますが,里美本人に悪気はないらしく「死んでしまった私の赤ちゃんの生まれ変わり」として大切に思っているようです。

「里美には死産経験がある」(冬馬編14話14:09)
「葉室に“子供を産めない体”にさせられた」(冬馬編16話21:16)
「中学の終わり頃,学校を長期間休んで,戻ってきたらおかしくなっていた」(冬馬編14話30:00)


なんか叙述トリックとかでもない限り,姉と「同じ目」に遭って妊娠したあげく,赤ん坊は死産(あるいは中絶)。その結果,子供が産めない体になってしまった……としか解釈できません。

(なお,里美が中学3年生のころ,巴もまだ中学生か小学生ですから,巴が後年素子に対して行ったような虐待は,里美に対しては行われなかったと考えられます)

 

素子の臓器を奪う企みには里美も加担しています。須藤の供述によると,「加担」どころか里美(と雪乃)が言い出しっぺだとの事。

冬馬編12話27:50

 

あと,大山さんの死体を平然と「始末」させたこととか。

「この人でなし!」(冬馬編15話20:11)

 

雪乃が憔悴しきってるのと対照的に,里美は全然参った様子がありません。

そんなこんなで「邪悪」という感じではないけど,やはりどこかぶっ壊れた感じはする人です。

 

村上巴

彼女はどうも,葉室銀の毒牙にはかからなかったようです。好みのタイプではなかったんですかね。
三姉妹の末っ子。昭和47年,早稲田大学に入学,原理研統一教会)から反憲学連へ。つまり,もと学生運動家です。詳しいことは冬馬編15話で説明されていますが,刑務所での服役を経て,養父・村上平吉の衰弱に乗じ,村上会の「調整役」として実質的首領の地位を獲得しました。そうした権謀術数には長けているのかもしれませんが,経済に疎いようで,いわゆる「経済ヤクザ」になりきれず,組経営を覚醒剤取引に依存させてしまっているといいます(加蓮編12話9:12)。
暴対法の施行とも相まって,警察から徹底的にマークされはじめた村上会に「未来がない」であろうことは平松も承知していましたね。ふじとも先生は「あと3年も持たないでしょう」と仰っていました。加蓮も「そのうち(警察に)潰される」と言い切っています。

破綻回避のため巴をどうにかしなきゃまずいという空気は組全体に流れているふしもありますが,どうしようもないっぽいです。

物語序盤では比較的大人しくみえた巴ですが,回が進むにつれ言動が勇ましくなってきました。葉室に何が何でも首相になってほしいのでしょう。それはイデオロギー的な共感からでもあり,村上会の復興に繋がるという思いからでもあり,また父親への孝,天皇への忠でもあるんでしょう。克く忠に,克く孝に美を済していますね。

ところで,フレデリカは巴をfundamentalistと呼んでいました(解決編2話39:55)。

彼女は聖のこともそう呼んでいます(解決編1話3:30)。

色々な意味のある言葉ですが,アメリカ人が言う場合,キリスト教原理主義のことですね。同性愛や中絶,性教育やいわゆるポリコレに強く反対する保守的なプロテスタント。トランプの支持基盤といえばわかりやすいですか。

フレデリカは統一教会や,聖の信仰するキリスト教シオニズム新宗教「光の輝き信仰会」を,そのように捉えたのだと思われます。

もっとも,統一教会はあまり中絶禁止を言いません。日本で中絶禁止運動に熱心だった新宗教と言えば生長の家なんですが,巴が学生時代に属した「反憲学連」は,生長の家および生長の家を母胎とする日本青年協議会(青協)の関連団体とされます。巴の中絶禁止主義は,統一教会より青協由来の可能性があります。かな子の「さすが原理と青協のキメラ(解決編2話40:10)」という発言は,そのあたりを捉えたものでしょう。

良い悪いは別にして,巴はやはり思想家としても,運動家としてもひとかどの人物といえます。途中つまずかなければ,衛藤晟一ルートや井脇ノブ子ルートなどに進み,自民党の政治家になるような展開もありえたかも。

 

巴は生還が確定しているものの,本作終了後の人生は茨の道だった様子……。

しかし,そんな中でも,冬馬編15話の新聞記事からは,苦難の中なお護国の志を失わず,安倍首相(当時)を心から尊敬し,まっすぐに,ひたむきに真正日本人の生きざまを極めんとしている姿が浮かびます。

 

冬馬編15話1:17

 

 なにひとつ恥じることはない。

 ただ,ただ,立派だ。

 

多くの視聴者さんがそのように感じたに違いないと確信しています。

 

4.アルカの狂気

中二病,ではない

アルカを中二病とか言った人いますけど,違いますよ。

中二病とは,なんてことはない平凡な一般人なのに,自分がさもアルカのような境遇に置かれているかのように振舞い「私の夢は,体を全て取り戻してここから出ること……それだけさ」などとブツブツ呟くようなのを言うわけでしょう。

アルカは設定とかじゃなく,ガチじゃないですか。

邪気眼邪気眼など持っていないのにもかかわらず持っているかのように振舞うから邪気眼なのであって,本当にそのような特殊能力を持つ者を中二病と呼ばないでしょう。

 

なぜ殺たし

さて,その不思議で不幸で謎めいた少女アルカ。

真やトアに乗り移り,母・素子とも意識を共有しながら殺人を重ねたようなのですが,なぜなんでしょう。

怨恨の線から考えてみますと,まず,石塚さんと邦彦くんはXTORTと無関係ですから,素子ファミリーの誰からも怨みをかっておらず,殺されてやむなしと呼べるような事情は見当たりません。

平松は微妙かな。巴が素子を虐待するのを傍観するにとどまり,止めようとまではしなかったっぽいですし,巴とセットで素子に恨まれている可能性は十分ありますよね。

須藤院長は臓器移植手術に立ち会っていたようですし,これは恨まれてもやむない。大山部長もまあ,事務方として手術の準備や後始末を担当していた可能性もあり,なら,やはり仕方がない。

シャサは,次話で触れると思いますけど,ある意味一番殺されて当然といえるかもしれません。

聖はまあ……,加蓮や林さんほどトアに優しくなかったことは間違いありませんが,かといってトアを虐めたとかではありません。だから特別恨まれる筋合いもないのですが,「気に入らないんだよね」の一言で殺されてしまったわけで,さすがに理不尽ではあります。

(この点,「なんで里美を殺さないのか」というコメントがありましたけど,いや,里美を殺したら自分を復活させてくれる人,いなくなっちゃうじゃん……。殺したくても,今はまだ殺せない。同様に,雪乃を殺すのもリスクが大きいでしょうね。)

 

臓器を奪う理由

「どうして“殺す”のかしら……」(冬馬編14話13:07)

「死体から臓器を取って来てもそんなの使い物にならないって,何度も説明したのに,どうしてわかってくれないのかしら……」(冬馬編14話13:16)

 

どちらも里美のセリフ。

アルカが殺人を重ね,死体から臓器を奪ってくることに辟易としている様子。

アルカは「身体をすべて取り戻したい」わけで,そのために人を殺し,死体から臓器を奪ってきて「これ,使って!」的なノリで里美に渡したのかも。

 

ところで,「ブリンガーの臓器を非ブリンガーに移植しても拒絶反応が起こらないというのはわかったが,逆に非ブリンガーの臓器をブリンガーに移植したらどうなるんだ?」という質問がありました。

これ,わかんないんですよね……。

だけど「逆」もイケる,というのであれば,手当たり次第に臓器を奪ってきて,自分に移植しろと迫るのは,そうおかしなことではないということになります。

まあ,でも,無理なんでしょうね。

どうして無理なのかはよくわかりませんが,里美は「そんなの使い物にならない」と言っています。

なので,アルカがやってることは無意味なんですよ。

それは臓器を奪うことだけじゃなく,人を殺すこと自体がそう。

で,何故そんな無意味なことをするのかといえば,それは狂気の表れ。

狂人であるがゆえ,狂ったことをする。

そしてその「狂気」は素子に由来する。

 

「モトコはクレイジーだから,外科医としての技能だけでなく,そのcraziness(狂気)もアルカたちと共有されている」(解決編2話33:15)

 

フレデリカはそのように説明していました。

巴に発狂させられてしまった素子は,その狂気でもってアルカの心を支配しているのかもしれません。

 

第四 次話以降の展望

1.警察に明日はあるか

斜め横断は犯罪ではない

双葉参事官は,斜め横断をしたかどで逮捕されました。

しかし,斜め横断は道交法12条2項で禁止されているものの,罰則がありません。

したがって,斜め横断それ自体は犯罪ではありません。

もっとも,警察官は斜め横断をしている歩行者に対し「規定する通行方法によるべきことを指示することができ」ます(道交法15条)。「まっすぐ渡りなさい!」などと指示できるということですね。

そして,歩行者がその指示に従わなかった場合に「二万円以下の罰金又は科料に処」されます(道交法121条1項7号)。

つまり,斜め横断自体ではなく,「警察官の指示に従わなかったこと」が犯罪なのですが,有罪となっても二万円以下の罰金を科されるにすぎません。

このような,いわゆる「軽微事件」の犯人は,たとえ現行犯であっても原則として逮捕できず,これを逮捕するには特別の要件をみたす必要があります。

具体的には,「現行犯人」であることに加え「犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡する恐れがある場合に限り」現行犯逮捕が許されます(通常逮捕の場合は199条1項ただし書)。

 

加蓮編17話後編14:15

 

林班の日之出巡査が杏を逮捕するにあたって「あなたがどこの誰なのかわかりません」というわけのわからないことを言っていたのは,そのような理由によります。

もちろん日之出巡査が,杏がどこの誰なのかわかっていなかったわけがないので,端的にこれは違法逮捕です。

 

マスコミも馬鹿ではない

こうして日之出巡査は無理やり杏を逮捕。

そして杏は豊洲署へ連行され,地下の駐車場で暴漢に撃たれ死亡。

その後,警察庁は記者会見で「凶悪犯罪の現行犯で逮捕した警察官がなぜか警察署で撃たれました!」といった内容の発表を行ったようです。

しかし,当初杏を「容疑者」として報じていたマスコミは,その容疑が「斜め横断」であるとわかると,杏の呼称を「容疑者」から「警視正」に改め,警察庁や警視庁に疑惑の目を向け始めました。

 

ぶちきれる最高幹部たち

マスコミの動向を受け,警察庁の我那覇警務局長は「テメーらが能無しだからこんなことになってんだ!(解決編2話7:12)」と,電話で公安第1課長を怒鳴りつけ……,

 

警視庁の岸川副総監も「逮捕は誤認だった,違法だったって発表しちまいな!(解決編2話41:17)」と総務部長をこれまた怒鳴りつけ。

 

警察庁NO.3と警視庁NO.2がともにぶちきれています。

ぶちきれているからといって,彼女たちが即,現在進行中の謀略を食い止め,陰謀を暴き,真相を究明すべく動き出すとも思えませんが,千早と浅井さんの計画が綻びを見せ始めたのは間違いありません。

解決編2話は,日本時間で1992年6月2日の夜。

これが朝になれば,何かを決意したらしき新田参事官や森久保課長なども行動を開始するでしょうし,佐久間課長だって大人しく引っ込んではいないでしょう。

どけといわれてどくような やわな根性じゃ男がすたる(解決編1話7:44)

 

 

娘にこうまで言われては(解決編1話6:55)

 

 

この人は最初から引く気なし。撃ちてし止まむ(加蓮編18話5:04)

 

 

「???」さんは改めてすもも長官に会いに行くと言っていましたし。

解決編2話9:01

 

良い方向に向かうのかどうかはともかく,事態が動き出すのは間違いなさそうです。

 

2.西南西に進路を取れ

フレデリカ=ミヤモト・ブラッチフォード

みんな大好きフレデリカ。

「ミヤモト・ブラッチフォード」という複姓になっていますが,これは本作の独自設定で,シンデレラガールズ原典においては単に「宮本フレデリカ」。

EVE_ZERO原作の「ルース=ブラッチフォード」という登場人物がだいたいフレデリカと同じ役回りで,ルースをフレデリカに置き換えるにあたって,姓だけ残したという感じですね。

設定を皆さんお忘れかもしれませんが,フレデリカはアメリカの「フィルブライト財団」の会長・シェリダス=フィルブライトの秘書です。冬馬には当初,CIAを名乗っていましたが,それはウソでした。

シェリダス会長は重い病気で,臓器移植が必要なんですが,1992年当時の医学では手術が困難な病状のようです。そこで,おそらくシェリダスの家族あるいは財団の執行部が治療と救命の方法を探していたところ,10年ほど前に資金援助をしたものの,それきりほったらかしにしておいたXTORT計画に行き着いたんでしょうね。

(ほったらかしになった経緯は,加蓮編5話4:56~でシャサが説明しています)。

 

では,XTORTの力で会長を助けることは本当に可能なのか。

オーソドックスな方法としては,XTORTで作った臓器を会長さんに移植してあげればいいわけです。

しかし,里美は

「理論的にはそうでも,実際にはある程度狙いを定めて培養していくわけですから……,会長さんに適合する組織をすべて揃えるとなると相当な時間が……」(冬馬編15話23:20)

と,あまりいい顔をしません。

そして,続けて怖いことを言い出す。

冬馬編15話23:20

 

「お姉ちゃん」って誰だろうってずっと言われてましたが,これはもうアルカのことでしょう。アルカの臓器を会長さんに移植すればいいのですが,サイズの問題で無理ということらしいです。

ところで,これは大いなる伏線で,この会話が交わされた翌々日,「お姉ちゃんと体型が似た女性」が大怪我をして意識不明の状態で研究所に運び込まれます。

まあ,「似た体型」と言っても,アルカよりちょっと大きいんですが,そのくらいは許容範囲だったんでしょう。

その女性とは,もちろん加蓮であります。

 

加蓮の復活とフレデリカの心変わり

加蓮が高円寺のシャサ方で胸部を刺された後,XTORTにより治療され意識を取り戻すまでの経緯は裏シナリオで詳しく描かれると思いますが,瀕死の加蓮を発見し,遺伝研に運ぶよう指示したのはおそらくフレデリカ。

上記のとおり二日前,里美に「お姉ちゃんと似た体型の女性になら,アルカの臓器を移植できるかも」と言われたのを思い出してのことでしょうね。

XTORTが本当にうまくいくのか,ちょうどいい実験になると思ったのかも。

 

ところで,このタイミングでフレデリカはアルカと初めて対面したんじゃないかな。

そして,アルカがトアや真に乗り移って猟奇殺人を繰り返していたことを知った。

 

もともとフレデリカは,トアや真に危害を加えることに反対していました。

巴や千早は,トアをエルディアに連れて行って,彼女の臓器をシェリダス会長に移植すればいいじゃないかというような提案をしたんですが,フレデリカは断固として拒否してきましたよね。

美女と鬼畜・その1(加蓮編14話前編21:54)

 

美女と鬼畜・その2(加蓮編8話1:40)

やさしい……とまで言えるかわかりませんけど,最低限人命を軽んじることはしない主義であったようなフレデリカ。源三郎に対しても,自分はトアと真を連れ去るようなことをするつもりはないと明言していました(冬馬編15話24:24)。それなのに,掌を返すが如く真を拉致してエルディアへと向かっているわけですが,それはやはり,真とトアが(アルカに操られてのこととはいえ)猟奇殺人の犯人であることを知ってしまったためでしょう。

もっとも,本当に真を殺す……というか,臓器を奪う気があるのかどうかまでは不明。

「あの兄妹は日本から離れた方がいい(解決編1話2:35)」などと,真やトアの身を案じるようなことも述べており,殺意や害意のようなものはあまり感じません。

そもそも,アルカ→会長への臓器移植は体格差から難しいかもしれないというのに,真→会長なら可能なのかという疑問もあります。

生きるか死ぬか

冬馬については,冬馬編14話冒頭などから平成31年における生存が確定しています。

なので,殺されるということはありません(かな子もたぶん大丈夫なんじゃないですかね)。

 

ただ,平成31年の冬馬と真美(亜美の娘らしい)の会話からすると,一連の猟奇殺人事件は,犯人不詳のまま未解決に終わったようです。

平成22年の刑事訴訟法改正により,殺人罪の公訴時効は廃止されましたが,作中時点の平成4年においては,15年と定められていました。

したがって,平成19年に公訴時効が完成しています。

(この点,本件の時効完成前の平成17年の法改正で,殺人罪の公訴時効が15年から25年に延長されたことから,時効完成も平成29年まで先送りされたところ,平成22年の法改正で時効は廃止されたのだから,本件は時効にかからないのではないかとも思えます。しかし,17年改正における時効期間の延長には遡及効がなく,改正法施行前に発生した事件には適用されませんでした。したがって,平成19年に本件は公訴時効になっており,遅くともその時点で捜査は終結しています。)

 

トアや真,そしてアルカが犯人として検挙されたことはなかったようです。

三人が生還できたのかどうかもわかりません。

解決編2話終了時点で,生還確定,すなわち今後本編が終了するまで死なないと確実にいえる人は,冬馬と百合子,森久保と紗南,聖來とゆかり,伊織と美希,巴,千早,あずさ,桃華,川島さん,美穂,すもも長官あたりかな。

ただ,生還はするものの,その後すぐ死ぬ警察幹部がひとり。

その人が死ぬことでその後の人生が変わる人が何人か。

まあ,千早もその一人ですね。

 

第五 おわりに

さて,次話ですが,令和6年2/11現在完成度40%といったところ。

急いではいます。

こんなブログ書いてる暇あったらさっさと動画を作れというご意見もありそうですが,動画の理解をたすけるために,やはりあったほうがいいですからね。

それでは今回はここまでです。

いぶますを読む 第4回

みなさんこんばんは。

さて,冬馬編は5日目が終了し,残すところあと2日。だいたいもうオチが見えてきたという方もいらっしゃるでしょう。

13話のラストシーンは,これから先のストーリーが悲劇的な展開に突入することを予期させたかもしれませんが,おそらく,冬馬編は大丈夫。加蓮編ほど絶望的な展開にはならない筈です(加蓮編は結構やばい)。


それでは,前後編でいつもより若干長かった冬馬編13話を振り返ってみましょう。
例によって,
冬馬編13話,加蓮編10話までのネタバレが満載ですのでご注意下さい。


















第一 広がってゆくXTORT
1.素子が産んだ「もう一人の子」
開幕1分で真がトランス状態になり,不穏なことを口走りました。

冬馬編13話前編1:25

榊原素子が臓器を奪われた経緯は,(真偽はともかく)冬馬編12話で須藤先生が説明済。したがって,ここでの問題は素子が「自分を強姦した男の子供を産んだ」ということですね。これは重要ですよ。だって,素子の産んだ子ということは「ブリンガー」である可能性がありますから。
忘れてしまった人のために再度説明しますと,「ブリンガー」とは「遺伝子操作の結果,誰に移植しても拒絶反応が起こらない臓器を持つに至った人」のことです。榊原素子は冬馬の父・健が行った遺伝子操作により後天的に「ブリンガー」となりました。そして「ブリンガー」が産んだ子は,親と同じ「ブリンガー」になる可能性があると,冬馬編12話で須藤先生が述べています。

(この点,「獲得形質が遺伝するのかよ」というツッコミがありましたが,「獲得形質」とは,生まれた後の経験や努力あるいは環境の変化で得られた性質であり,遺伝子配列自体の変更ではないところ,素子は「遺伝子操作」すなわち遺伝子配列を変更させられたことにより「ブリンガー」になったと考えられますので,それならば遺伝により素子の子が「ブリンガー」になってもおかしくはない……と,いうことになるんだと思います)。

 

しかしながら「ブリンガー」なんて,そんな現実離れした話ありえねぇよという見解も存在するようです。

加蓮編7話後編11:53

このおばあちゃんは「ブリンガー」の実在のみならず,XTORTという技術自体を信じていないようです。とはいえ,素子から葉室へ臓器移植が行われたこと自体は認めているらしく,「もう何もかも世間に公表してしまうことはできないんですか? それが葉室にとって一番困ることだと思うのですが」と述べています。

葉室のこと,嫌いなんですね。
ちなみに,このおばあちゃんのお部屋のグラ,別のシーンで使いまわされたりしてますけど,そこは深読みしなくて結構です(笑)。

なお,「ブリンガー」の臓器を他人に移植しても拒絶反応が起こらないメカニズムは,次々回あたりの加蓮編で詳しく語られます。とはいっても原作ZEROにおける描写をそのままなぞるだけですけどね。

2.包帯ぐるぐる巻きちゃん
ミイラというか綾波というか,まあ,かわいらしい顔はしてますね。

冬馬編13話前編1:33

なぜ彼女が,素子について言及されたシーンで出てきたのかはさておき,三度目の登場ですね。一度目はこちら。

加蓮編7話後編14:29

二度目はこれ。

加蓮編8話28:23

彼女が作中時点で生きているのか死んでいるのかはわかりません。しかし,いずれにしても,遺伝研の地下に「居る」もしくは「ある」ようです。

3.真の「トランス状態」
ハイライト,沈黙中。

冬馬編13話前編1:39

真がこうなったのは二度目で,一度目はこちら。

冬馬編3話17:24

↑これは巴と平松の回想シーンなんですけどね。
真は5月28日の昼間,今回と同じようなトランス状態でいきなり村上会総本部に現れ,「自分が石塚殺しの犯人である」というようなことを口走ったようです。

真の「自分が犯人である」という「告白」は邦彦殺しのときにも見られました。

冬馬編8話19:49

もっとも,殺された石塚/邦彦はいずれも死体から内臓が摘出されていて,それは専門的技能の持ち主,たとえば医師でもない限り不可能だとされているんですよね。法医学者(高畠)の意見に基づいて警察が下した判断ですから間違いないでしょう。
だから真にできる筈はないんです。とすると,かりに真が二人を殺した犯人であるとするなら,臓器を摘出したのは別の人物ということになるんでしょうか……。

そして……,

冬馬編13話後編20:53

わかりにくく感じた方もいらっしゃるかもしれませんが,撃ったのは真です。石塚/邦彦殺しについてはまだ疑惑の域にとどまるものの,これについては真が犯人です。
「この銃は……!」みたいなコメントありましたが,ご安心下さい。冬馬が源三郎から渡されたグロック銃ではありません。あのグロックはたぶん,やよいが警察に持っていったんじゃないかな。

ちなみに,殺されたのはこの人ね。


冬馬編4話20:58

村上会の組員です。ボイスが付いてますけど,特に重要人物というわけではありません。
彼だけでなく,石塚にしろ邦彦にしろ,XTORTとの直接的な関連はいまだ見つかっていませんから,とばっちりで殺されただけのような感じもします。動機がまったく不明です。

ただ,組員を撃った直後の真は目のハイライトが消えていますし,やはりトランス状態だったんでしょう。石塚/邦彦殺しの犯人が真であるとしても,犯行時においては今回と同様のトランス状態だった可能性が高いです。かりに薬物を投与されたとかで正気を失って犯行に及んだのだとしたら,心神喪失による責任不存在で犯罪不成立とも考えられますか。


第二 スーパーレディ・かな子
1.かな子のひらめき

冬馬編13話前編10:53

 

冬馬編4話25:22

5月29日に豊洲で村田と一緒にいた少女がトアであったと唐突に気付いたかな子。それに対し「今さらかよ」的なコメントが多かったのですが,今まで気付かなかったこと自体は仕方がないです。だってかな子が須藤先生から『榊原素子が「ブリンガー」であり,その娘のトアも「ブリンガー」である可能性がある』ということを聞かされたのは,ほんの数時間前のことです。トアがXTORTの関係者として重要なのは「ブリンガーの産んだ子」だからであって,それがなければせいぜい,多数存在する「関係者の周辺人物」の一人に過ぎません。

かな子は「トアの写真を見たことがある(冬馬編13話前編7:17)」だけで,別に重要人物として認識していたわけではありません。真と似ているなと思った程度です。さらに誘拐事件についてもニュースでチラッと聞いただけで,詳細は知りませんでした(そもそも源三郎が起こした銃撃戦の影に隠れて,大々的には取り上げられていない)。

要するにかな子は,トアという少女についても,誘拐事件についても,それらが自身の調査しているXTORTに関連する事項だという認識を欠いていたわけです(もちろん,認識を欠いていたことについてかな子にミスはない)。であれば,他にやらなきゃならないことが山積していた中で,忘れていても当然でしょう。にもかかわらず,須藤先生から「ブリンガー」についての話を聞いた後,DMJの来訪という些細なきっかけですべてを思い出し,瞬間的に点と点を結び付けて「誘拐に遭ったのはトアだ!」と気付いたことはむしろ驚くべきことです。
かな子は作中で1,2を争うくらい頭脳明晰な人ですよ。

ちなみに,水本検事やむそう氏は「資料P」を読んでいますから,「ブリンガー」についても既知と思われますが,かな子はそんなことまで知らされていませんでした。

冬馬編12話11:46

そもそもかな子は,須藤先生に会う直前まで「ブリンガー」という言葉はもとより,XTORTについても「拒絶反応を起こさせず臓器移植ができる何か」という認識しかなく,葉室に移植された臓器が榊原素子のものであったなんて夢にも思っていません。それどころか,素子が仁科を補佐して移植手術の執刀に当たったものと考えていました(冬馬編12話13:23)。
調査にあたって断片的な情報しか与えられていないのは,加蓮編における林班のゆかいな仲間たちと同様です。まあ,公安庁も「公安」ですから。

いずれにせよ,すでに加蓮編で明らかになっているとおり,トア誘拐はXTORTとは無関係の偶発的事件です。千早や豊洲署の浅井署長がこれを利用して悪だくみをしている件は,冬馬編においては当面さしたる意味を持たないでしょう。

2.かな×とう
ここにきて全登場人物中かな子が一番好きというコメントが増えてきたような気がします。
冬馬編12話のOPで「ほのぼの青春ラブコメディ」などと書いたせいなのか,冬馬と誰かのカップリングを考える視聴者さんも出てきました。
その中でちょっと印象に残ったのがこれ。
「かな子はもうちょい我を抑えて落ち着いたら冬馬の相手筆頭になるのに・・・落ち着こうね!」

いや,落ち着けと簡単に言いますけどね。
落ち着いたかな子ってこれですよ↓

冬馬編13話前編23:19

これが常態だったら,ますます冬馬の好みからは外れそうな……。
ていうかそもそも,冬馬がかな子のこと好きになったとしても,かな子の方がそれに応じるとは限らない。
かな子はノンキャリアの調査官ですけど,大学は早稲田ですし,おそらく20代で主任になっています。なかなかの才媛といえるでしょう。公安調査庁という役所は,検事が圧倒的に強い一方,本庁採用キャリアとノンキャリアの垣根が低いとも言われ,ノンキャリアでも内部試験をパスすることでそこそこ偉くなれます(※1)
国家公認のインテリジェンス・オフィサーであり,実績も将来性も人並み以上と思われるかな子。そんな彼女にとって,冬馬は男としてだいぶ物足りないんじゃないかなあ……という気もしますね。年齢的にみても,かな子は冬馬より5~6歳年上ですから。

なお,原作EVE_ZEROには,かな子に相当する人物は登場しません(かな子の偽名として使われた氷室冴子,柴田茜は登場しますが,まったく役割が違う)。しかし,EVEシリーズ全体を通してだと氷室恭子ポジになっていく人だと考えられます。したがって,本作終了後,時系列上の続編であるEVEバーストエラーへ続くとしたら,もっとヒロインらしい役割を果たしていくかもしれません(冬馬,かな子ともに生きていればの話ですが)。

※1)昔の公安庁は相当深刻なレベルで「ダメ官庁」という烙印を押されていたようで,キャリアを採用しようと思っても,まともな人材が集まらなかったというんですね。要するに,優秀なノンキャリアを引っ張り上げて幹部ポストに充てないと,組織運営自体がままならないといったような……。真偽のほどは不明ですが,そういう「ダメ官庁エピソード」はよく耳にします。


第三 動き出した警視庁刑事部
刑事部が動き出したのはやよいの告発を受けてのことですが,詳しいことは次回以降の加蓮編で明らかになっていくでしょう。

なので,ここでは荒木比奈主任のこの台詞について。

冬馬編13話前編19:01

「デュー・プロセスの崩壊」がなぜ千早批判の文脈で出てくるのか,ググってもわからんというコメントがありました。私もググってみましたが,そうすると一番上に来るのがwikipediaの該当ページで,主に憲法上のデュー・プロセスについて解説されています。確かにこれだけ読んでも本作との関わりはわかりません。

憲法13条
「何人も法律の定める手続きによらなければその生命または自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない」

デュー・プロセスは「適正手続」と訳されます。憲法13条の要請するデュー・プロセスは,上記のとおり刑事手続の適正性に関する規定です。国家権力は,適切な手続を経ずして人を牢屋に入れたり処刑してはいけませんということです。

ただ,これは憲法学の専門用語としてはそうという話であって,実際のところ「デュープロセス」はもっと広い意味で使われます。難しく言うなら行政過程一般の適正性」となりますか。警察は行政主体,警察官は行政機関であり,その活動全般が適正・公正な手続を経て行われなければならないのは当たり前のことです。

まあ,役人は法で定められた手続きを守って行動せよという話です。

 

これまで何度も述べてきたとおり,警察庁は国の機関,警視庁をはじめとする各警察本部は都道府県の機関で,それぞれまったくの別組織です。警察庁長官警察法などの規定に基づき,都道府県警を指揮監督できますが,個別の事件についての捜査を直接指揮するようなことはありません。千早は本来,石塚/邦彦殺害事件の捜査に干渉できる立場ではありません。
にもかかわらず,千早は当該事件の捜査について,意味不明なプロファイリング資料をもとに犯人を名指しし,捜査本部の置かれた警察署に自ら押しかけて捜査本部長に口頭で命令を行って恣意的な内容の調書を作成させ,それに異議を唱えた参事官(新田さんね)を脅迫まがいの言動で黙らせるなどという,通常の手続を完全に無視した滅茶苦茶なことをしています。正当な権限に基づく業務執行ではなく,「キャリアの警視正」という権威を笠に着て,背後に存在するであろう大物の威を借り横暴に振舞っているだけとすら取れます。そして,そのような行為を正当化する口実すら「無理やり公安事件ということにして捜査を直接指揮する形をとるか,他の理由をこしらえるか,これからゆっくり考えましょう」という無法ぶりです。

荒木主任は,5年前すなわち前作における千早は「手順と先例を厳守することだけが取り柄だった」といいます。皮肉っぽくも聞こえますが,役人として大事なことがきちんとできていたということですから,その点については褒めているんです。
前作の千早は伊織やDMJにずいぶん酷い事をしましたが,そうとはいえ捜査幹部として彼女らを直接指揮する正当な権限を有していました。また,捜査方針を決定し,証拠の取捨選択を行うことが許される立場でした。何の問題もないとまでは言えないにせよ,最低限の建前は守っていたわけです。
それが今や,上述したような無法ぶりなのですから,荒木主任の立場からすれば「キチガイ」と言いたくもなるでしょう。その点を捉えて「デュー・プロセスの崩壊」と評価したわけですね。

ただ,いずれにせよこれは千早一人の「暴走」ではありません。背後には別の大物が黒幕として存在します。


第四 女子会
冬馬編13話のハイライトは,参加者それぞれの思惑が交錯したあの女子会でしょう。
伏線は冬馬編3話の冒頭から既に張ってありました。

1.春香
まず,春香ですが,彼女は本作における各種陰謀・策略の類にさほど深く関わっていません。
聖來からの謝罪を受けるために呼ばれただけです。もちろんXTORT絡みのあれやこれやについて亜美からひととおり聞いて知ってはいるものの,その情報を利用して裏から政局を操ってやろうみたいなことは考えていない。もっとも,春香は宏池会的リベラルですから,葉室みたいなのとは相性悪いでしょうけどね。
彼女は,前作で色々あって酷い目にも遭ったんですが,今は売れっ子の政治評論家としてそれなりに幸福な人生を送っています。「はるるんも現状に不満はないが、あの女(ゆかり)のやり口には思うところもあるってとこか」という,実に的確なコメントをした方がいらっしゃいましたね。

2.聖來
聖來は,反葉室派の急先鋒である宏池会会長・小宮六助に師事している関係で,葉室の総理就任を阻止すべく動いています。この点,あくまで「葉室を総理に就任させた上で現職のまま検挙」したいゆかりの思惑とズレているようにも見えますが,聖來としては「総理に就任させない」ことも「就任後すぐに失脚させる」ことも大して変わらないと考えていそうです。

もっとも,雪乃に高価なレンガをもらったりしたことで,彼女への配慮が必要になりました。具体的にいうと,手術の件と別の「葉室のスキャンダル」をゆかりに提供することが必要になってしまったということです。なぜならば,ゆかりは移植手術の件をネタに葉室を検挙しようと企てているところ,その手術には(正確な経緯は不明にせよ)雪乃も関わっているため,表沙汰になってしまうと雪乃が困ると考えられるからです。
そこで出てくるのが,葉室(の秘書)が「これからやる(冬馬編13話後編11:57亜美)」というインサイダー取引です。なんのこっちゃいなと思った視聴者さんが多いかと思いますが,ヒントはこれ↓

冬馬編6話12:54

亜美が葉室の秘書と話している場面ですね。
ここは亜美が「資料F」を葉室陣営に提供した場面でもあります。
「葉室銀を打倒して,日本をとりもろす!(冬馬編13話後編11:00亜美)」なんて言っておきながら,万が一反葉室の企てが失敗したときに備えて保険をかける意味で,葉室陣営にも利益供与を行っているようです。

3.亜美
その亜美ですが,彼女は源三郎とも繋がっていますし……,

冬馬編7話14:01

右翼団体を結成するにあたっては,聖の手を借り……,

加蓮編5話15:05

右翼なので村上会とも繋がっています。

加蓮編9話2:13

さらに,フレデリカを村上会に紹介したのはたえさんだといいます。つまり亜美はフィルブライトとも繋がりがあって,村上会とフィルブライトの関係を仲介しているようですね。

加蓮編9話2:04

そして,警視庁の三浦あずさ総務部長とも繋がっています。

加蓮編9話16:49

さらに,上述のとおり「葉室(の秘書)がこれから行う」というインサイダー取引の情報を聖來経由でゆかりに提供することにより,公安調査庁の動きをも操ろうとしています。
つまり亜美は,本作に登場するほぼすべての陣営と繋がりを持っています。
言い換えるなら,全登場人物中もっとも多くの情報を有しているといえます。

それらの情報と人脈を駆使して亜美は何がしたいのか。
今のところは,各陣営の動向を天秤にかけて勝ち馬に乗り,おいしいところを持っていこうという意図しか見えません(もちろんそれが真意という可能性もある)。
この点「ゆかりへの復讐が目的じゃないの?」と思った方もいらっしゃるでしょう。確かにそれもあるのですが,それはそれ。ゆかり一人を破滅させるためだけに,これだけ大袈裟な陰謀を企んでいるというわけではありません。

4.雪乃
雪乃の目的は大雑把に言って二つ。
一つはもちろん,相原製薬を守ること。実姉である美城専務に経営を乗っ取られてしまい,このままでは外資(ガイギーというスイスの製薬会社らしい)に身売りされてしまいます。

加蓮編7話後編3:09

この点,そもそも相原製薬は危機的な経営難に陥っているのですから,外資の傘下に入ることで業績が回復するなら別に構わないだろうとも思えます。

にもかかわらず雪乃が身売りに抵抗するのは,自分の持株比率が下がるとか,会社への影響力が失われるような事態を避けたいという身勝手な理由からなのでしょうか。
作中での言動からわかるように,雪乃はそういう人ではありません。彼女が外資への身売りに反対するのは,明治時代の創業以来相原製薬に代々受け継がれてきた伝統的な経営環境が失われ,社員が不幸になることへの懸念からです。
専務との会話の中で雪乃は,家訓・社訓を守ること,「社長も社員もみな家族」という家族主義的経営理念を維持することなどをしきりに訴えていました。非常に保守的かつセンチメンタルな姿勢です。
「会社は社員のため,そして薬を必要とする患者さんのためにあります(冬馬編3話1:03雪乃)」「目先の利益よりも人間を尊重するのが相原の社訓であり,家訓です。社員を不幸にするような会社に,それこそ未来なんてありえません(加蓮編7話後編4:44雪乃)」という言葉にもおそらく偽りはなく,経営者として高潔な態度であることには間違いありません。
聖が本屋で買ってきた製薬業界のゴシップ本には,雪乃のことがボロクソに書かれているみたいですが,その点につき加蓮が遺伝研の松井理事長に問い質すと「会長のせいではない。会長はそういう人ではない」という怒気を孕んだ答えが返ってきました(加蓮編6話24:56)。
経営トップが社員全員に崇拝されていたりすればそれは逆に薄気味悪いですから,もちろん反発もなくはないのでしょうが,同業他社に比べて「社員の給料がものすごく高い(加蓮編6話4:27)」ということもあり,社内での雪乃の評判は総じて悪くないと思われます。
雪乃は経営者としてやや甘いところはあったんでしょうが,かといってものすごく無能というわけでも,無責任でもありません。若くして社長となり,色々と不運も重なって(加蓮編6話25:08)会社の経営不振を招いてしまいましたが,その後銀行とも協議を重ね,現実的な再建プランを立案(加蓮編7話後編3:41)した上で全責任を負う形で経営から身を引き,専務に再建を委ねたわけです。その判断と行動は妥当といえるでしょう。無邪気に専務を信じたことが愚かだったとは言えなくもありませんが,実の姉ですからね……。あれほど敵意剥き出しの裏切りに遭うとは夢にも思っていなかったんでしょう。まあ,仕方ありません。
誰に対しても辛口評価で,母である里美についてすら辛辣なことしか言わない真が,雪乃に対してだけは全幅の信頼と愛情を寄せているという点もまた重要ですね。

とすると,ふじとも先生のこの評価も,白々しい美辞麗句というわけでなく,ある程度的を射ているんだろうなと。

冬馬編13話後編5:25


雪乃のもう一つの目的は,「遺伝研でやってる何か」を成功させること,あるいはそれに関する秘密が外に漏れるのを阻止することでしょう。
その「何か」とはたぶん,フレデリカが遺伝研の地下で見たものなんでしょうが……,

加蓮編7話後編5:44

加蓮編8話28:50

加蓮編10話26:47

遺伝研の地下にはおそらくすべての秘密が隠されています。例の包帯ぐるぐる巻きや,日付変更時に出てくる謎の女に関することも。
それは榊原素子を犠牲にして行われた臓器移植手術とも深い関連があるのでしょう。須藤先生の供述どおり,雪乃が里美と一緒になって仁科をそそのかし,手術を強行させたのかどうかはわかりません。しかし,雪乃がXTORTに深く関わっていること自体は間違いなさそうです。高潔な人格者として振舞う姿の裏側に,もう一つの邪悪な顔を持っているということでしょうか。

5.ふじとも
怪しげなふじとも先生ですが,彼女についてはなぜ「朋姫様」と呼ばれているのかということも含めて,作中で今後さらに掘り下げていく予定です。なんにせよ彼女は詐欺師やカルト指導者の類ではありませんよ。「モデルは尾上縫か?」という指摘もありましたが,断じてそういうのではない(笑)。コメントにもありましたように,占い師というよりは,占いに仮託して経営者や政治家にコンサルティングを行っている人物と見た方がいいです。

ところで,ふじとも先生にせよ亜美にせよ,雪乃を利用して一方的に食いものにしようとしているわけではありません。ふじとも先生は,わりと純粋な人助けとしてやってる面が大きいです。亜美もまた自分一人だけ得をしようというタイプではなく,みんなで得してウインウインになろうというスタンスの人です。そうじゃなかったらただの小悪党で,フィクサーなんか務まりませんから。


第五 由愛と右翼
1.由愛と小宮
小宮六助は最近の回では登場しておらずご無沙汰ですが,宏池会の会長です。もっとも,作中における宏池会はあくまで「宮澤派」であり「小宮派」ではありません。宮澤喜一氏が総理を務めている間,小宮が派閥を預かっているということですね。小宮は87歳で,当選14回。旧内務省出身。あの原健三郎氏より2歳年上,櫻内義雄氏より7歳年上で,福田赳夫元総理と同齢。まさに自民党最長老の一人でしょう。ニュースでは「元通産大臣」と呼ばれていましたから,おそらく衆議院議長にはなってないんですね。もちろん総理経験者でもありませんが,いずれにせよ大物議員であることは確かなようです。
彼はかなり強硬な対米従属派であったらしく,かな子によるとアメリカに逆らう奴は皆殺しみたいなスタンスの政治家」で,安保反対運動や在日米軍基地反対運動に対し「発砲しろ」とか「自衛隊の戦車で踏みつぶせ」などという暴言を吐いたことがあるといいます(冬馬編8話15:02)。
そのような過激な対米従属的姿勢に憎悪を募らせた由愛は,小宮の殺害を企てます。しかし,発砲はしたものの当たらなかったのか,当たったけれども急所を外れたのか,殺害は失敗に終わります。そして殺人未遂の罪に問われ数年間服役。出所後は本編をご覧のとおりデータ屋を生業としており,右翼運動からは遠ざかったといいます。からくも暗殺を免れた小宮が今もなお強硬な対米従属主義者であるのかは不明です。今後明らかになります。

2.テロでしか世界は変えられない
さて由愛ですが,今回はやたらに殺意旺盛ですね。源三郎は冬馬の両親の仇であり,外国のスパイに身を落とした国賊だ。したがって冬馬の手で討ち取られても当然であると。
さらに,榊原素子を犠牲にして生き延びた卑劣漢である葉室は総理に相応しくない。だから殺して就任を阻止しろと,直球でテロを推奨しているわけですが,『それをテロと呼ぶなら,テロにしか「正しさ」はない』とさえ言い放っています。

冬馬編13話後編15:53

もっとも,由愛自ら葉室を殺すつもりはないようです。

冬馬編13話後編16:48

怖気づいたとかではなく「国賊討伐という尊い行為は,汚れた手で行われるべきではない」という信念からなんでしょう。それじゃ誰も後に続かないというんですね。
由愛はおそらく,討伐者は事を為した後,自らも命を絶つということを前提に話をしています。国の為に身命を賭し,救国の捨て石たらんとする崇高な精神を受け継ぐ者がいなければ,それこそ単なるテロに終わってしまう。それではダメなのだと。
公安警察の見解として(※2)民族派の運動は「三島事件を契機に急速に高揚した」といいます。この世には「生命以上の価値」があるのだということを,三島由紀夫は文字どおり身命を賭して示しました。その死が多くの人々の魂を揺さぶったという証です。
また,野村秋介朝日新聞東京本社社長室において自決したのは本作の翌年,平成5年10月20日のことです。
現代に主流を占める右翼とは大きく異なる潮流が確かに存在したのです。
※2)警備研究会『わかりやすい極左・右翼・日本共産党用語集』(立花書房)

3.時代
ところで,葉室を殺すべきだと由愛が主張する上述のシーンで「まるで現総理を蹴落としたくて何でもする左翼みたいだなあ」というコメントがありました。
安倍首相の殺害を企てる左翼なんて聞いたこともありませんし,そもそもなぜこの場面への批判に左翼を持ち出すのかなどのツッコミどころはありますが,由愛が「左翼みたい」という指摘それ自体には一理あります。

なんとなれば由愛は反米で,反基地です。以前に解説回でしまむらさんが説明したとおり,それは「YP体制打倒」という新右翼民族派)のイデオロギーから生じる主張なのですが,平成29年現在「YP体制」は完全に死語になっています(もしかしたら作中当時でも死語に近かったかもしれません)。そして沖縄の基地問題は(実際にはそう単純ではないものの)反対派左翼VS反・反対派右翼の構図で把握されることがほとんどでしょう。
由愛が「思想的にまったくブレることなく」平成29年現在まで生き延びたとすれば,当然反基地でしょうし,おそらくは反原発であり反ヘイト・スピーチになっていると思います。これは現代の(とりわけネット界隈での)感覚からすると,左翼とみなされるでしょう。換言するなら,現代右翼のメインストリーム,すなわち産経系メディアや日本会議統一教会幸福の科学などのイデオロギーとは一線を画しているということです。
いずれにせよ本作は,平成4年(1992年)が舞台ですから,右翼陣営が現代ほど画一的ではありません。由愛は右翼で十分通用します(ていうか,左翼と呼ばれることなんてありえないでしょう)。
もっとも,ここはネット上。なかんずくニコニコ動画ですから「時代がどうとか知るか。左翼は左翼だ!そんなんじゃなく真の保守,真の愛国者を登場させろ!」というご意見をお持ちの視聴者さんが大勢いらっしゃるでしょう。
しかし,それは既に登場してます。もちろん聖と巴です。のみならず今後さらに何人か増えます。聖や巴のイデオロギーは,上に述べた現代右翼のメインストリームへと一直線に繋がっています。彼女らが現代まで生き延びていたら,ツイッターで安倍政権への絶賛と,韓国・中国・在日コリアン・維新以外の野党・朝日新聞等々への罵詈雑言を朝から晩までつぶやき続ける立派な愛国戦士になっている筈です(年齢的に現役を退いていて暇でしょうから)。

4.学生運動
「由愛は学生運動出身か?」というコメントがありましたが,そのへんはプロット的にも未定です。また「盾の会出身者か?」ということですが,由愛はまだ30代です。かりに昭和31年生まれの35歳だとすると,三島事件の当時は中学生ですね。というわけで世代が違います。さらに「三無事件関係者か?」って,それはもっとありえないですね。

いまのところ作中で学生運動出身と明言されているのは,巴です。
加蓮が言っていたとおり,巴は元・反憲学連です。

加蓮編10話21:39

反憲学連というのは反憲法学生委員会全国連合といい,警察用語にいう民族派学生団体」の一つです。民族派であるなら由愛と同じじゃないかということになりそうですが,民族派にも色々あって,立花書房の本(※3)によると反憲学連は「日本青年協議会(青協),生長の家学生会全国総連合(生学連)と表裏一体にあ」ったとされます。青協や生学連は,谷口雅春イズムの影響を強く受けた団体です。谷口雅春とは,新宗教生長の家創始者です。

つまるところ巴は民族派のうちかなり宗教色の強いタイプです。

一方の由愛は,これと別系統の民族派右翼です。

(このあたり,作中でいずれ詳しく触れられるはずです)。

 

ところで,反憲学連は昭和の終わり頃には既に活動を停止していましたが,その上位団体・OB団体である青協はその後も活発な運動を続け『反共教化団体の横断的組織である「日本を守る会」に参加し,反共教化団体と共に……草の根運動を続け……成功させた』(※4)とされます。「日本を守る会」とは日本会議の前身です。そのような流れで現在,青協は日本会議の中核・中枢を占めているといわれています。
※3)警備研究会『わかりやすい極左・右翼・日本共産党用語集』(立花書房)
※4)警備実務研究会『右翼運動の思想と行動』(立花書房)



第六 カレーと冬馬
最後にカレーの話。

冬馬編13話前編21:50

本編のストーリーに直接関係するわけではないんですが,冬馬がカレーを作る話はいつかやらなきゃダメだと思っていたので,今回それができてよかったです。ややマニアックな内容ではありますけどね。私がああいう現地風のメニューが好きで,よく食べに行くんですよ。さすがに自分じゃ作れません。材料を揃えるだけでも大変ですからね。
作中で冬馬が述べているように,インドに「カレー」という料理はないそうです。しかしインド人が日本でインド料理店を開くにあたっては,「インドカレー」を看板にしないとお客さんが集まらないため,やむなく彼ら自身にとっては馴染みのない「カレー」という名前を使わざるを得ないのだといいます。
また,インド料理店を標榜していても,オーナーや従業員はネパール人やパキスタン人やスリランカ人で,料理もそれぞれの国のものを作って出しているというケースもあります。「インド」を名乗らないとどのような料理が出てくるのかイメージしてもらえず,お客さんが来ないため,やむなくそうするのだと聞きました。

冬馬の料理を食べたかな子と真がしきりに塩辛い,油っこいと文句を言っていましたが,実際日本人が現地風のインド料理を口にすると,そのような感想を抱くことが多いです。
現地風料理を出すガチなお店に友人や知人を連れて行って「おいしい」と喜ばれることは滅多にない(笑)。まあ,5人に1人くらいじゃないかな。女子はまずダメ。男の人の方が気に入ることが多いです。
およそカレー屋というのは,女性客を掴まなければ成功がおぼつかないらしく,結局「かな子が気に入るようなカレー」を作って出さざるを得ないということになります。

ちなみに,作中ではタンドール・ロティも出てきました。

冬馬編13話前編19:30

それで「自宅にタンドールがあるのかよ」というコメントをしてた方いらっしゃいましたけど,あるわけないです(笑)。冬馬が言っているように,あれは出来合いの物を買ってきただけです。冷凍のナンやロティを売ってるお店があるんですよ。1か月くらいは日持ちするんです。家庭料理としては「タワ」というフライパンを使ってチャパティを焼くのが普通なんですけどね。


第七 おわりに
という感じで,今回はこのくらいです。
年末年始は京都で過ごします。PCは持っていきませんので,その間,動画を作ったりは出来ません(笑)。
いぶますは来年いっぱいで完結できればいいなと思ってるんですけどね。
だけどここから先はたぶん大変。回収しなきゃならない伏線もいっぱいあるし,死にゆく人にはそれなりの見せ場を作んなきゃならないですしね。
新アイドルは最低あと一人はでてきます。
たぶんまだまだ先。物語の最終盤です。大物です(きらりじゃないよ)。

ではではー。


以上

 

いぶますを読む 第3回

みなさんこんばんは。「いぶますを読む」第三回です。

第一 序
冬馬編12話は,後半の須藤先生のお話が長すぎて,視聴者の皆さんには不評かなと思っていたんですが,意外と評判が良くて驚いています。「神回」タグまで付けられてたり(笑)。

第二 須藤証言の考察
1.証言の概要
では早速ですが,色々と物議を醸している須藤証言について。
箇条書きにするとだいたいこんな感じ。

(イ)遺伝子操作によって生まれた「ブリンガー」という特殊な遺伝子の持ち主がいる。
(ロ)「ブリンガー」の臓器は誰に移植しても拒絶反応が生じない。つまり誰にでも移植できる。
(ハ)先天的な「ブリンガー」はおそらく存在しない。遺伝子操作の結果生じるものである。ただし「ブリンガー」自身の産んだ子は,先天的に「ブリンガー」たりうる。
(二)XTORTはナノテクとクローン技術を用いて「ブリンガーの遺伝子」を組み込んだ臓器を作る研究。そうして作り出された臓器は,誰にでも移植が可能となる。
(ホ)榊原素子(里美・巴の姉,トアの母,シャサ=ノバルティスの妻)は遺伝子操作の結果,DNAが「覚醒」した最初の「ブリンガー」である。
(ヘ)昭和57年,虚血性心疾患と肝細胞ガンを併発し,死の淵を彷徨っていた葉室銀に,素子の臓器(心臓,肝臓,腎臓)を移植する手術が行われた。その結果葉室は生還し,素子は死亡した。
(ト)上記移植手術を執刀したのは仁科秀人。素子の臓器を葉室に移植するよう仁科に勧めたのは里美と雪乃。素子の死体を始末したのは(おそらく)源三郎。
(チ)源三郎はシャサの友人。上記移植手術の以前から仁科研究室に出入りしていた。仁科にも気に入られていた様子。

列挙してみると確かに衝撃的な内容ではありますが,これらの事実の一部は加蓮編10話において既に語られていました。

2.警察も公安庁も知っていた
CIAから内調を経由して警察庁に渡り,森久保が杏に密かに見せた「資料」の中に,榊原素子の臓器を葉室に移植する手術が行われたという記載があったようです。杏はそれを「女医をぶっ殺して臓器を奪ってそれを自分(葉室)に移植させた(加蓮編10話04:09)」と表現しています。
また,杏は,トアの身辺を厳重に警戒するよう森久保に指示しました。理由は「10年前の葉室と同様に,重病で死の淵を彷徨っているシェリダス=フィルブライトに移植手術を施すため,トアの臓器も狙われるかもしれない」から。須藤先生の話によれば,素子の産んだ子であるトアは,先天的なブリンガーである筈ですから,その臓器は誰にでも移植可能ということになります。
さらに「手術に関わった医者どもを全員検挙すれば葉室は終わりだ」とも述べています。それに対し森久保が「(犯罪として立件するには)証拠が足りなさすぎです」と反論しているものの,「資料」には,仁科,健,里美,雪乃,シャサ,須藤が「犯行」に加担したという旨の記載もあったのでしょう。

同じ「資料」を持っているバラモス陣営も,だいたい同様の理解をしています。水本検事いわく「もちろん仁科一人の手による犯罪ではありません。XTORTの産みの親ともいえる天ヶ瀬とノバルティス,そして相原,榊原里美,須藤……全員が同罪といえます。未完成の技術の一部とはいえ,それを試す機会を得たことで,彼らはまさに恍惚の心境であったに違いありません。そしてそこに人命を尊ぶ感情は一片たりとも存在しなかったでしょう。エゴイズムを極限まで肥大させた科学者たちの,まさに狂宴です(冬馬編11話後編06:45~)」

つまり,公安警察の上層部および公安庁の上層部は,当該移植手術が行われたことについて,はじめから知っていたわけですね。そして公安警察は警視庁公安部に,公安庁は関東局にその裏を取らせる作業をさせていますが,末端にいる加蓮やかな子には,ほとんど何も事情を明かしていません。すべてオープンにした上で証拠収集に当たらせる方が効率的ではないかとも思えますが,こうしたややこしい秘密主義が公安の公安たるゆえんです。末端の作業員には断片的な情報しか与えず,幹部だけが全体像を把握できるようにすることで秘密の漏洩を防ぐ。まあ,オホマスでは刑事部の凛がこれをやっていましたが。
とすると,あらかじめ与えられた情報が多くないにもかかわらず,個人的な人脈や情報網を駆使して全体像に迫りつつあるかな子は凄いですね。間抜けな印象を抱いている方もいらっしゃるかもしれませんが,彼女はなかなかのスーパーウーマンです。

3.証言の信憑性
ところで,あえて言うまでもないかもしれませんが,須藤先生の証言がすべて真実とは限りません。伝聞による部分が多いですし,そもそも彼は里美と雪乃が嫌いなんでしょう。彼は里美と雪乃よりも年下なんですが,年功序列とかではなく,出身大学を理由に冷遇されているという思いが強かったようです。須藤先生は都立医大の卒業生。都立医大では東大か慶応出身のドクターじゃなきゃ偉くなれないというのは,高畠医師も語っていたところです(加蓮編7話前編20:32)。須藤先生のこうした感情は,彼自身の証言の客観的な信用性を減殺するともいえます。

4.そもそもできるの?
「ブリンガー」を生み出すための遺伝子操作。そもそもそんなことできるのか,という疑問を持った方は大勢いらっしゃると思いますが,ぶっちゃけ,わかりません(笑)。
しかしここは完全に原作どおりなので,実際できるかどうかはともかく,理論的には可能なんでしょう(たぶん)。
その人自身の病気を治療するためとかではなく,他人へ移植するためのいわば「スーパー臓器」を作り出すために,ヒトを遺伝的に改良するって,倫理的にも相当問題あるような気がしますが,昭和57年以前という時代背景を考えるとアリ……なのか?
ちなみに私は高校時代に生物と化学を履修しましたが,大学は法学部に進みましたので,センター試験が終わった後,理系の知識は加速度的に失われました。よって,あまり細かいことを突っ込まれても答えられませんのでご了承ください。

第三 やよい
1.今回はやよい回
さて,動画の主コメで「今回はやよい回かも」と言いました。実際やよい回なんですが,彼女の冬馬に対する言動について「ここまで病的とは思わなかった」「人格障害の親が子供に向かって考えることと一緒でつらい」などのコメントも見られました。
まあ,やよいのやってることは端的にモラハラでしょう。じゃあ主コメにある「弟の成長を見守る,やさしく暖かなまなざし」ってのは何だったんだよと突っ込まれそうですが,別にそれは嘘ではなく,やよいは冬馬に深い愛情を向けていますし,冬馬もそれをある程度受容しています。モラハラってしばしばそういう関係性の下で発生しますよ。

2.警察へ駆け込んだやよい
やよいは今回,これまでに得た情報を全部持って警察へ駆け込みました。もしかして,わかりにくかったかもしれませんが,やよいは「BOOK of XTORT」を新田参事官に渡しただけではなく,ゲーセンでの銃撃戦のことも,冬馬が平松に襲撃されたことも,源三郎のスパイ疑惑やエルディアとの繋がりも,全部暴露しています。「こんな荒唐無稽な話を信じて下さったうえに……」「父は逮捕されますか」等の台詞からわかります。
情報暴露の動機は「冬馬が襲撃されたから」です。情報の提供と引き換えに自分と冬馬の安全保障を要求したわけですね。公安庁では頼りにならないと判断したんです。公安庁との関係なんかよりも,自分と冬馬の身の安全が大事なわけです。

3.反抗期グループ

やよいがなぜ刑事部の「反抗期グループ」を選んで情報提供を行ったのかというコメントがありましたが,それはただ新田参事官とコネがあったからというだけのことです。いくつかの選択肢の中からあえて選んだわけではありません。そもそもやよいは公安陣営VS反抗期グループの対立なんて知りませんから。
いずれにせよ,このことは加蓮編のストーリーに大きな影響を与えると思われます。なぜなら,やよいが反抗期グループに提供した情報には,公安陣営がまだ知らない内容も含まれているからです。それは何かというと,源三郎と冬馬,そして真のことです。
公安警察陣営の持つ「資料」にはおそらく,三人についての記載がありません。千早や森久保,百合子の会話の中に,三人の名前が出てきたことはありませんから。
作中で新田参事官が十津川警部を呼び出していました。おそらくゲーセン銃撃戦の一方当事者が源三郎であること,そして冬馬がバス停で平松に襲撃されたことの裏を取らせるためでしょう。それを受けて杏がどう動くかはお楽しみに。

4.日本国憲法第24条
話をやよいに戻しますが,彼女の冬馬に対する態度が「異常」「病的」かどうかは,わりと意見が分かれるところでしょう。

やよいと冬馬の関係は姉と弟ですが,かりにやよいが父,冬馬が娘の関係だとすれば,父から娘へああいう言動がなされることは,そのこと自体の是非はさておき,珍しくはないんじゃないでしょうか(とりわけ作中当時であれば)。

「一人暮らしなんて許さん」

「お前の結婚相手は俺が決める」

「お前は俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだ!」など。

それは過度なパターナリズム(家父長的温情主義)とも言えますが,そのような形の家族秩序・家族規範を社会全体としてむしろ尊重し,推進していくために,憲法24条を変えるべきだという主張が存在します。たとえば24条1項は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し……」という出だしで始まりますが,ここでもう憤る人がいるわけです。つまり,結婚は当人たちだけの問題ではなく,家同士の結びつきであるから,家族(とりわけ父親)の同意が必要だ。子供が好き勝手に選んだ配偶者やその親兄弟が,礼儀や道徳をわきまえなかったり,あるいは外国人だったりすれば,そのような人間が入り込むことで家族が壊される。ひいては家族を基礎単位とする日本社会全体が崩壊する……と,このような理屈ですが,本作の視聴者さんの中にも「そうだ,そうだ」と頷く方はいらっしゃるのではないでしょうか。
なぜいきなりこんな話を始めたかといいますと,「葉室は憲法をどう変えたいんですか?」という水本検事の質問に,京玉男さんが「24条が一番嫌いなのではないかと窺わせるふしもあ」ると答えていたじゃないですか(冬馬編12話10:37)。24条は家族生活における個人の尊厳と両性の平等を規律した条文です。つまり葉室は24条が嫌いというのが本当であれば,それは「個人主義を基調とする家族観」を嫌っているせいなのかもしれませんということです。

第四 残された謎
今回で一気に物語の核心が明かされたのでは?というコメントがありましたが,案外そうでもありません。
確かに榊原素子の「失踪」の経緯は明らかになったとはいえ,そのことと石塚/邦彦殺しがどう結びつくのか(あるいは結びつかないか)は,全く明らかじゃありませんから。

あと,真のこと。

加蓮編8話01:03

フレデリカは,シェリダス=フィルブライトへ移植するために,トアだけでなく,真の臓器が狙われる可能性にも言及してるんですよ。なら,真も「ブリンガー」なのか。
この点,杏はトアの身辺を警戒するよう指示したのみで,真については何も触れていません。真は別に殺されてもいいってこと?
……もちろんそんな筈はないでしょう。杏はただ真の存在を知らないだけです。上述のとおり,くだんの「資料」に記載がないためです。

しかし……,

加蓮編4話23:51

これはだいぶ以前のすもも長官と「???」さんの会話ですが,「生きながらえるために二人の子供を犠牲に」するかもしれないのは,おそらくシェリダス=フィルブライトでしょう。まあ,移植手術を受けなきゃ死ぬというんですから,そのためにトアなり真なりを殺しても「緊急避難」と言えないこともないかもしれません(もちろん,刑法上の緊急避難が成立して無罪ということは到底考えられませんが)。
「???」さんが警察関係者なのかはわかりませんが,すもも長官は真のことも認識済なわけです。

それと……,

加蓮編7話後編14:29

加蓮編8話28:23

この包帯ぐるぐる巻きは誰?って話。
……と,まあこれについてはお詫びも込めて言わせていただきますと,作中でまだ言及されたことのない人物です。したがって,この人の正体を推理することは現時点でおそらく不可能です。

ちなみに……,

加蓮編7話後編11:51

この人については,作中で既に存在が言及されています。
したがって,正体を推理することは可能です。

あとはまあ……,

毎回出てくるこれはそもそも何なのよって話ですが,多分ほとんどの方はもうわかってると思いますので,あえて何も言いません。
物語最大の核心です。


以上

いぶますを読む 第2回

みなさんこんばんは。「いぶますを読む」第二回です。

第一 序
どんどんストーリーがややこしくなってきて,混乱している方がほとんどでしょう。
なので,今後は解説やQ&Aを丁寧にやっていこうと思います。
できれば本編中でやる方がいいんでしょうけど,次回からはまた冬馬編になりますので,みなさんの記憶が新しいうちに加蓮編最新話までの解説を済ませておこうと思います。

というわけで,いつものごとく本編4日目(加蓮編10話,冬馬編11話)までのネタバレが満載ですので,以下をご覧になる際はご注意下さい。

第二 葉室銀がやったこと
さて,加蓮編10話では結構いろんなことが明らかになりました。
一番インパクトが強かったのは,杏と森久保の,このやり取りですか。

「お前,葉室銀が10年前に女医をぶっ殺して臓器を奪って,それを自分に移植させたって話は鵜呑みにしておきながら,なんでフィルブライトがそれを真似するのはありえないって言えるんだよ?」
森久保「鵜呑みにしたわけでは……。調査である程度裏が取れているからですよ。くだんの女医も,3年前に失踪宣告が確定しています」

この「ぶっ殺」された女医が誰かというのはまだ明らかではありません(もしかしたらトアの母であり,シャサ・ノバルティスの妻であった榊原素子なのかもしれませんが)。しかし,水本検事が喰い付いた「葉室銀のスキャンダル」というのはこれのことでしょうね。
「ぶっ殺して」なんて強い表現を用いていることから,穏当な方法での移植手術ではなかったのだろうと推測できます。

ところで,ストーリーの核心部分にあたるような事実をなぜこんなあっさり明かしてしまったのかと思われている方もいらっしゃるかもしれません。
まあ,確かに核心は核心なんですけど,葉室銀がそういう手術を受けたということ自体より,それに付随する事実の方が重要なんですよ。
「なぜ移植手術は成功した?」とか,その他色々と。

第三 トアと真の臓器
次に,やはり杏の台詞ですが,
「トアの臓器は誰に移植しても拒絶反応が起きないんだろ?(加蓮編10話1:34)」

トアの臓器を奪って,フィルブライトの会長・シェリダスに移植するという話は,加蓮編8話冒頭のフレデリカと巴の会話の中に出てきました。

フレ「XTORTなんて得体の知れない方法に頼るより,真クンやトアちゃんの臓器をそのまま移植した方が手っ取り早い……。そんなことを本気で考えている連中がいる」

「そんなことを本気で考えている連中」が,今回トアを拉致しようとしたパジェロの二人組であり,冬馬編5話で冬馬たちを襲った暴漢なのかもしれません。
しかし,フレは真やトアから臓器を奪うことには反対なんですよね。ところが巴は,真を殺されるのは困るけど,トアが殺されるぶんにはどうぞどうぞ。むしろ殺してくれヒャッハーなわけです。どうして巴がそうなっちゃったかは,いずれわかりますのでお楽しみに。

ところで,どうもフレと巴の会話からは,真の臓器もトアのと同様「誰に移植しても拒絶反応が起きない」っぽいんですよね。なのに,杏は真に一言も触れてないんですよ。トアの身を案じて,もっとちゃんと警戒しろと森久保を叱責すらしているのに,真はどうでもいいのか。考えられるのは「真が狙われる心配はないと思っている」か「そもそも真の存在を知らない」でしょうね。ここはすごく重要なポイントなので,覚えておいて下さい。

第四 日教組
日教組について詳しく解説する予定はありません(左翼陣営の解説にまで踏み込んでいたらキリがない)。
もっとも,日教組という言葉自体は,本編において今後も何度も何度も出てきます。これは作中に右翼が登場する以上,避けられません。右翼とは「日教組に嫌がらせをする人々」のことであると言い切っても,ものすごい間違いとは言えない程度に,右翼と日教組は切っても切れない関係です。

第五 Q&A
Q1.そういや、今回全編通して読点が「,」だったね。uchino職場の書類みたいだw
今までほぼ動画作成専用機として使っていたPCが壊れました。なので仕事用のPCで作っています。つまり,読点にコンマを使う業界で仕事をしているということです。
おそらくanatano職場と同じ。


Q2.サムネぱっと見加蓮がネコ耳付けてるっぽく見える
何度も確認したけど,ぜんぜん見えないぞ。

Q3.
・森久保あほなの?
・この思い込みの激しいとこが親子関係に反映してるのかな
・森久保がどんどんポンコツに見えてきた
思い込みが激しいのは,実は杏の方。トアが襲われるかもしれないという杏の懸念は,あくまで直感です。石塚殺しや邦彦殺しをトア襲撃に結び付ける根拠はほとんど何もありませんから。であるにもかかわらず,森久保は,トアが豚にさらわれて行方不明になった際には迅速に捜索に着手しましたし,当回でも杏の見解を一応容れて,林さんに警戒強化の指示を出しています。必要に応じて打つべき手はきちんと打つ能吏ですよ。性格には問題がありますけどね。

村田を犯人に仕立て上げる企みは,葉室銀の圧力によるものというのが森久保の見解ですが,自分でそういう見方をしておきながら,「警察庁がそう易々と葉室の言いなりになるのはおかしい(加蓮編10話5:20)」と,物事を多角的に分析する冷静さも備えています。

杏は,前作におけるユッコのキャリア版って感じです。異才の人ですね。直感でトア襲撃を言い当てたことも,英語の膨大な資料を58分で読了し,完璧に頭に叩き込んでしまったこともその表れです。

Q4.森久保は杏にこれ(CIAからの資料)を読ませて何をさせたいんだろう
当初は杏に「何も知らずにいた方が安全」と言っていた森久保。しかし,千早が邦彦殺しまで村田の犯行に仕立て上げようとするに至って,杏に事情を打ち明ける決意をしました。

その理由としては,第一には「現状を知った上で,保身に努めてほしい」という気遣いですね。川島刑事部長は海外に逃げてしまいましたので,ことによっては次席の杏が代理決裁をしなきゃならないわけです。下手なことすると責任を問われかねません。

第二には,杏による状況分析が聞きたかったんでしょう。

杏と森久保は,お互い無遠慮に言いたい放題言っていますが,それで喧嘩にならないのは,強い信頼関係が存在するからでしょう。そこは加蓮&聖ペアと対照的ですね。

Q5.こんなのバニラマリンPはどこから調べてるんだwww(異言について)
異言についてのオーソドックスと思われる見解はだいたいこのへん。
https://www.youtube.com/watch?v=DmERMobXElA&t=1189s
作中で聖が発していたような異言を発する人たちが「新しい歴史教科書をつくる会」に大勢いたといいます。作中時期よりもずっと後のことではありますが。

Q6.
・よく今の職に就けたなw(聖)
・なんでそんなんが公安におんねん(聖)
本作の舞台である平成4年は「オウム前」です。
……と,いいつつ,別に今現在,聖のような公安部員がいてもおかしくはないですけどね。

聖の所属する教団はいわゆる「カルト」ではありません。ただ左翼や創価学会に憎悪を向けているだけで,終末思想のようなことを説いたりはしません。
聖個人としては,創価学会への憎悪はさほどでもないようですが,ひたすら左翼を憎んでいます。左翼を残虐に殺したい。ついには「国民の先頭に立ち左翼を殺す」という「義務」を怠っているがゆえに「天皇も左翼」。みたいな。

Q7.(あずさは葉室の)姪ってことはハラワタ入れ換えた件は知ってるのかな?
回答保留。
その点はシナリオ上,大変重要。

Q8.旭日旗ならともかく日章旗(日の丸)で潜在右翼になるのか……
部屋の中に何の脈絡もなく日の丸が掲げられていたら,一般的な感覚として「こいつ右翼か!?」となりますよね。
……まあ,「ならない」という方もいらっしゃるかもしれませんが,警察が潜在右翼を発見しようとするときの「着眼点」は,だいたいそんなもん。「突然,空手道場に通い始めた」という理由で尾行された人なんかもいるようです。

作中に出てきた「普通と異なる真剣な面持で有名神社に参詣する(加蓮編10話21:08)」というのも,やはり「着眼点」として立花書房の本に明記されています。「有名神社」というのは勿論,あの神社のことです。あの神社を参詣するにあたって,公安にちょっかい出されたくなかったら,あまり目立つことはしない方がいいかもしれません(コスプレは可とのこと)。

もっとも,着眼点はあくまで着眼点にすぎず,それに一つや二つ当てはまったところで,直ちに潜在右翼と判断されるわけではありません。

Q9.
・セクハラするのかwww(森久保)
・森久保のセクハラだと……?!(ガタッ
・ぼのののセクシャルハラスメントやってえええええぇえ!
……いや,第一話で登場するやいなや,加蓮にセクハラしまくってたじゃないですか。「結婚のご予定は?」とか「お付き合いをしている男性は?」とか。
別に「エロいことをする」ことだけがセクハラではありませんからね。

Q10.加蓮好きなので交代は残念
かりにバーストエラーをやることになったら,まりな役は加蓮以外の人にすると言いました。なぜかというと,加蓮は真弥子と仲良くなれない気がするから。ここの加蓮は生真面目で融通きかないし,享楽的なところもほとんどありませんから,真弥子みたいなめんどくさいタイプの少女の心を開かせ,打ち解けさせるのは難しいでしょう。冷たい,事務的な関係のまま終わりそう。それじゃ話になりませんからね。

Q11.十津川警部、亀さん、西本レオの出番は有りますか
今のところないですが,また新田さんの雑用要員として登場する可能性はなきにしもあらず。レオはまあ,公安庁の京玉男氏が結構それっぽくないですか?

Q12.カーチェイスパートの冒頭で,加蓮はなぜトアを外で一人で待たせたのか
だって,トアが狙われてるなんて思ってませんでしたから。

Q13. 今回「キ○ガイ」って言葉がやたら飛び交うなw
本作,とりわけ加蓮編全体を貫く最重要のキーワードのひとつです。
だけど「犯人がキ○ガイ」とか,そういう単純なことではありません。


以上

 

いぶますを読む 第1回

さて、改めましてこんばんは。
いぶます初のブロマガです。

冬馬編11話、加蓮編7話までのネタバレが満載なので、ネタバレが嫌な方はご注意下さい。

今回(冬馬編11話)で、だいたいの伏線は出揃いました。
今さらではありますが、いぶますのストーリーは非常に複雑で、正直何が何だかわからんという方も大勢いらっしゃるでしょう。そうなってしまったのは勿論、私の至らなさではありますが、原作EVE_ZEROがそもそも難解な物語だからというのもあります。そこで、今回はブロマガで物語のわかりにくかったであろう箇所の解説を行いたいと思います。

第一 XTORT考察
まず、本作最大のキーワードと思しき『XTORT』についてです。エクストートと読みます。XTORTは勿論、原作にも登場する要素で、物語上きわめて重要である点も本作と同様です。

冬馬編9話の大山事務部長の証言によると、XTORTとは『クローン技術とナノテクを用いて、移植用の臓器を作り出す研究(冬馬編9話11:25)』だそうです。そして『臓器を作り出すための技術』に過ぎないから『法的にも倫理的にも問題』は『ない』と強調しています(同11:40)。もっとも『まるで夢のような研究』であったために『理論どおりにはいかず失敗に終わ』り、『今現在でも成功例は存在しない』と述べました(同11:53)。

ところが、今回冬馬編11話では、上記大山証言と矛盾する証言が出てきました。かな子は『XTORT』には成功例があったと述べます。曰く『XTORTを使った臓器移植で生還した患者が存在する(冬馬編11話後編25:29)』。そしてその患者は今も『ピンピンして』おり、冬馬も『知っている人』だといいます。

以上を踏まえた上でXTORTに関連する出来事を時系列順に見ていきます。

★昭和43年 仁科心臓移植事件

これは作中時点では既に故人である医師・仁科秀人が日本初の心臓移植手術を行ったものの、最終的に移植を受けた患者(少年だったようですね)は死に至り、失敗に終わったというものです。そして①心臓の提供者は脳死と判定されたものの、実はまだ蘇生が可能であった。②心臓を移植された患者は、直ちに移植手術を必要とするほどの容態ではなかったなどとして、札幌地検殺人罪もしくは業務上過失致死罪の疑いで捜査を行いました(冬馬編11話後編6:00)。その時の担当検事が現・公安調査庁長官、すなわちあの酔っ払いのおっさんです。しかし、結局立件は見送られたようです。

すべてのはじまり……といった様相を呈していますが、要注意点として、この手術は都立医大で行われたものではありません(都立医大はまだ設立されていません)。舞台となったのは北海道の『小樽公立大学』です。したがって、冬馬の父も、シャサ=ノバルティスも、榊原素子・里美姉妹も、雪乃も須藤氏も、そして大山さんも一切関わっていません。
仁科は検察による逮捕・起訴をからくも逃れたものの、やはり世間からは糾弾されたようで、大山さん曰く『居心地が悪くなり』、翌昭和44年、単身で渡米します。そしてフィルブライト医学研究所に籍を置き、分子生物学の手法で移植医療における拒絶反応をコントロールする研究に取り組んだようです。

★昭和48年 都立医大設立・仁科帰国

この年に仁科はアメリカから帰国し、設立直後の都立医大分子生物学講座の教授に就任します。仁科研究室の誕生です。
ところで高畠医師いわく、昭和48年時点で東京に新しい医大は必要なかったのに『無理やり作った』。そこには政治的背景があったようで、都立医大は設立当初『葉室医大』などと揶揄されていたと言います(加蓮編7話前編22:26)。つまり都立医大は葉室の後押しで設立されたようです。さらに仁科は山形出身で葉室と同郷です。このあたりの事実もわりと重要です。

★昭和49年 冬馬父・シャサが都立医大

かな子の証言、すなわち公安庁の調査によると、冬馬の父・天ヶ瀬健とシャサ=ノバルティスは、東大の『素粒子理研究センター』というところから、都立医大へ移って来たとのこと。健は仁科研究室の助教授に就任します。
そして、健とシャサが『XTORTの生みの親』とされています(冬馬編11話後編6:46)。『Book of XTORT』は健の手による論文です。またシャサも『A study of XTORT』なる論文を執筆したといいます(加蓮編7話前編13:28)。二人がXTORTの研究を開始したのは東大にいた頃なのか、都立医大に移ってからなのかはまだ不明ですね。

★昭和53年 里美、都立医大

この年、里美が東大の大学院から研究生として都立医大へ移ってきました。雪乃が都立医大へ来た時期はまだ本編で明言されていませんが、彼女は里美と東大医学部の同期ですから、おそらくこの前後でしょう。

また,須藤医師は都立医大の卒業生だったといいますから、大学設立から6年後に当たる昭和54年以降に卒業している筈です(医学部は6年制)。つまり須藤医師も早ければ54年には仁科研究室に入ったということですね。

さらにもう一人、里美の姉にしてシャサの妻・トアの母である榊原素子。大山さんの話によれば、彼女も仁科研究室の一員でした(冬馬編9話12:18)。ただし研究室に入った時期はまだ不明です。また、大山さんが仁科付の秘書として研究室に入った時期も不明です。

いずれにせよ、昭和53年以降、おそくとも昭和57年までの間に、仁科、健、シャサ、素子、里美、雪乃、須藤、大山の8名が仁科研究室に集ったということになります。

★昭和57年 仁科移植から14年後の『犯罪』

この年は最重要です。
 1.昭和57年の『犯罪』
水本検事いわく『仁科は過去の罪を悔いるどころか(仁科移植から)14年後になる昭和57年……再び同種の犯罪に手を染めた(冬馬編11話後編6:40)』『それは仁科一人の手による犯罪では』なく『XTORTの産みの親ともいえる天ヶ瀬とノバルティス、そして相原、榊原里美、須藤……全員が同罪』である。その上で仁科、健、シャサ、雪乃、里美、須藤の6名を『人命を尊ぶ感情は一片たりとも』持ち合わせない『エゴイズムを極限まで肥大させた科学者たち』とまで罵り、厳しく糾弾しました。
彼ら彼女ら6名は何をしたのかということですが、健とシャサをわざわざ『XTORTの産みの親』として挙げていることからして、それはXTORTに関連する行為だったのでしょう。そしてその行為は犯罪にあたる……。検察官である水本さんがそう断言するのだから、まあ、そうなんでしょう。
しかし上記水本証言に、おやっ?と思った方は多いのではないでしょうか。当該『犯罪』の『犯行メンバー』6名の中に、里美の姉にしてシャサの妻・トアの母である榊原素子が含まれていません(大山さんも含まれていませんが、彼女は事務方ですから直接当事者ではないのでしょう)。素子が失踪したのも昭和57年です。『犯罪』が行われたとき、素子は既に失踪していたために名前が挙げられていないということでしょうか……。
 2.XTORTの『成功例』
ところで、かな子が言っていた『XTORTを使った臓器移植の成功例』はいつのことなのでしょうか。移植手術を受けた患者は生還したといいます。かな子が『執刀したのは仁科と榊原素子じゃない?(冬馬編11話後編1:23)』と言っていることから、素子が失踪した昭和57年以前の出来事であることは間違いないでしょう。
もしかすると、この移植手術が水本検事のいう『昭和57年の犯罪』なのでしょうか。しかし、上述したように、XTORTはそもそも法的に問題のない範囲で『臓器を作り出す』技術です。そのようにして作り出された臓器を移植しても犯罪とはいえなさそうです。
もっとも水本検事は『昭和57年の犯罪』について『未完成の技術の一部』を『試』したものと述べています(冬馬編11話後編6:55)。すなわち、XTORTは本来、法的に問題のない技術・研究であるものの、昭和57年にはまだ未完成であり、そのような未完成の状態で手術に用いたため、何らかの犯罪性を生じさせる結果となったという見方は成り立ちそうです。
 3.天ヶ瀬健の死
なお、健が『Book of XTORT』を書き上げたのも昭和57年です(加蓮編7話前編14:55)。そして交通事故に遭い死亡したのも同年です。

★昭和59年 遺伝研設立

 1.仁科の死・XTORTの挫折
健の死から2年後、遺伝研が設立されます。XTORTのために作られた研究所であると大山さんが明言しています(冬馬編9話12:22)。設立資金は相原製薬とフィルブライトから出ています。この時期、雪乃は既に相原製薬の社長になっています(20代で社長になったとあり、平成4年現在で39歳であるため)。よって相原製薬が出資者になったのは雪乃の意思でしょう。そしてフィルブライトが出資者になった経緯はまだ明確ではありませんが、仁科は仁科移植の後にフィルブライト医学研究所に籍を置いており、その際にできたコネクションなのかもしれません。なお里美も同じフィルブライトの『生物科学研究所』で学んだ経験があります(冬馬編7話3:07)。
しかし、せっかく研究所ができたのもつかの間。その年に仁科は病死します。そしてXTORTの研究は頓挫し、以後、遺伝研でXTORTに関する研究は行われていないといいます(冬馬編9話12:40)。
 2.その後のXTORT
ところで、シャサの証言によると、遺伝研は都立医大と共同で『特殊なタンパク質の働きでヒトの免疫機能を抑制する研究』を行っていた。しかしその研究は『色々あって行き詰』まり、昭和61年頃に相原ファーマテック社に引き取られた(加蓮編5話8:37 同8:50)。以後ファーマテック社においてシャサを中心に研究が進められ、コンピュータのハードウェア技術を導入することで一定の成功を収めたようです(加蓮編5話9:06)。
この研究とXTORTの関係はどうなのでしょうか。この点につき、良いコメントをなさった方がいらっしゃいました。いわく「人工臓器の作成(XTORT)は細胞分化のコントロールだから、免疫抑制とは違う」。そのとおりですね。シャサが進めている研究は、XTORTとイコールではないわけです。もっとも、フレデリカはXTORTの内容について調べると同時に、シャサの研究も欲しています。したがって、両者はまったく無関係のものではないのでしょう。
 3.雪乃の悔恨・遺伝研に遺された『モノ』
遺伝研が設立されて8年、すなわち作中における『現在』である平成4年。遺伝研は解体・消滅の危機にあります。親会社の相原製薬の経営危機により、シャサが在籍するファーマテック社ともどもリストラを通告されたからです。それを回避するため、雪乃が必死に策を講じているようですが、なぜなんでしょう。

シャサ「ファーマテックの廃業は仕方ないとしても、遺伝研は……。“あれ”を設備ごと他の場所へ移す時間的余裕はありません。終わりですね……。やはり我々は何もかも間違っていたんです」
雪乃「終わらせたりしません……。そうでなければ私たちは全員地獄へ落ちます」
(加蓮編7話後編5:40)

少なくとも雪乃とシャサの二人は、過去に反倫理的な『何か』に手を染めていたようです。


第二 公安調査庁
公安庁については今後のストーリーの中で詳細を明らかにしていきたいと思います(足りない部分はいずれしまむらさんに解説してもらいます)。作中で伊織とかな子がいろいろ言っていますが、とりあえずそこは流しておいて下さい。

ここでは二点だけ。

まず一点目として、法務省には本省採用のキャリア官僚もいますが、この人たちはトップである事務次官や主要局長にはなれません。法務省本省の要職はすべて検事によって占められています。キャリアがトップになれない唯一の中央省庁でしょう。

法務省の外局である公安庁も同様で、トップの長官、NO.2の次長、NO.3の総務部長、全員検事です。そして、NO.4の調査第1部長には警察官僚が就きます。桃華ですね。なお、検事は検事の身分のままで法務省内を異動します(充て検といいます)。したがってゆかりも公安庁総務課長であり、かつ検事ということになります。

二点目。公安庁はオウム事件でクローズアップされる前は、たいへんマイナーな官庁でした。完全に不要官庁・無能官庁という扱いだったようです。その理由は明らかで、『本来の』かつ『唯一の』目的を達成したことが一度もなく、また達成できる見込みも皆無だったからです。
この点もいずれ詳しく解説します。


第三 警察の思惑

公安庁の……というより水本検事とむそう氏の思惑は当回で長官が指摘したとおりですが、警察は何考えてるのか謎ですね。邦彦の死亡推定時刻を不自然に長くとっている理由はおそらく次回以降の加蓮編で明らかになりますが、まあ、ご想像のとおりです。

警察の不自然・不条理な動きを、葉室銀からの圧力によるものと考えている視聴者さんが大半かもしれません。確かに、作中でそれを匂わせるような事実がいくつか出てきています。ただし、伴内官房長官「それにしても葉室と警察に一体どんな接点があるんだ? あのバカに警察を動かせるような力なんてないだろ(冬馬編7話26:58)」という台詞は心に留めておいて下さい。あと、前作をご覧になった方には説明不要かと思いますが、あずささんはバカじゃありません。さらに前作で、千早の最終ポストは何だったかということ。これは重要です。


第四 Q&A
Q1.法務省矯正局って何をどう矯正するんだ?怖えぇ
犯罪者を刑務所などの施設に収監し、労務に従事させたり更正プログラムを課したりすることで矯正します。要するに刑務所や少年院などを管理監督するセクションです。
以前、検事ではない法務省キャリアが矯正局長に就任したことが話題になりましたが、今はまた検事のポストに戻ったようです。

Q2.御堂とか出んの?
多分出ません。この時期、彼は日本にいないんじゃないんでしょうか。

Q3.え?テラーの事もう日本知ってんの?
公安庁は知ってるようですが、内調は知らないでしょう。まあ、ZEROにもバーストエラーにも公安庁は登場しませんから、あくまで本作における設定です。

Q4.シリア役は誰だろ?胸的に雫?
シリアも本作には登場しませんよ。バーストエラーの登場人物ですから。雫はまあ、見た感じはシリアと似てますが、悲壮感に欠けますね。アイドルを充てるなら柊志乃さんとかいかがでしょう。もっとも、彼女にも別に悲壮感はないですが……。

Q5.あの酔っ払い検事正じゃねえかよ(公安調査庁長官)
公安庁長官は検事長高等検察庁の長。天皇認証官)一歩手前のポストです。あんな見た目でも順調に出世しているようですね。なお、ゆかりも後に公安庁長官になります(前作最終話後編参照)。

Q6.あぁ、劇場版ドラえもんの歌か(冬馬編11話後編5:50~の曲)
のび太の小宇宙戦争』です。ピリカ星なる惑星の内紛を描いた映画で、ドラたちはクーデターで追放された大統領の側に立ち、大統領を追放した軍事政権と戦うんですが、その軍事政権側の秘密警察がピシア(PCIA)といいました。公安庁の略称はピーシア(PSIA)です。そういう繋がりで、本作における公安庁のテーマ曲という位置づけです。

Q7.バラモスさんの過去は、いずれ明かされるよね?
多分明かされます。家庭環境とか、聖來との関係とかですね。
やはりほのサスシリーズにおけるこの人の存在は大きいので、公安庁幹部としての動きだけではなく、その人間性もクローズアップしていきたいところです。
「私には家族も友人もおりません」と言っていました。つまり、聖來のことは友人と思っていないわけです。憎悪の対象でしかない。バラモスさんを突き動かしているのは、あくまでも憎悪とコンプレックスです。

Q8.原作と比べて源三郎がかっこ悪すぎるw
以前にも説明させていただいたとおり、やってること自体は原作とほとんど変わりません。仕事と家族を捨てて外国へ渡り、その外国政府に雇われて白色テロやスパイ活動に従事し、突然帰国したと思ったらゲーセンで銃をぶっ放し、白い礼服姿で街を徘徊する……と、見る人によってはかっこいいと言えなくもないですが、残念ながら冬馬ややよいやかな子や由愛には、源三郎のかっこよさ、偉大さが理解できないんですね。
なお、原作の小次郎は源三郎を『アルプス山脈のような男』と見ているようです。あまりにも巨大で、はるかに見上げるしかない存在……と。やってることは別に、本作と同じなんですけどね。


第五 まとめ
今回はこんなところです。
冬馬父の死の真相や、榊原素子が失踪した事情など、いろいろ推理してみて下さい。
あと、他に考えてみてほしいこととして、加蓮編の一日の終わりあたりに登場する謎の『???』さん。何者かということについては、まだ未登場の人物であるかもしれませんのでひとまず置くとして、その『???』さんと会話をしていた謎の老婦人(加蓮編7話後編11:54)は誰なのでしょう。それと、警察側の『黒幕』は管警備局長でいいのか。

推理なさる際は、本編のコメントではなく、このブロマガのコメント欄でお願いします。
ネタバレはご自由にしていただいて構いません(ただ原作にはあまり触れないで下さい)。

オホマスを読む 第二回

第一 序

『オホマスを読む』第二回です。

以前にも申し上げましたとおり、オホマス本編は第50話での完結を予定しています。
このへんでもう一度くらい解説回を挟んでおこうかとも考えたんですが、終盤間際でグダグダするのもどうかと思いまして、一直線でのゴールを目指す運びとなりました。うまくすれば年内に片が付くでしょう。

前回同様、最新話(46話)までのネタバレがいっぱいです。気を付けてご覧下さい。



 

 

 

 

 

 

 

第二 警視正セーラ

1.厚生省のほうから参りました

さて、今回も本編の解説をしていきたいと思います。テーマは水木聖來さん。

 

保安部長 水木聖來(42)

42話からの、わりと唐突な登場だったので、存在意義がよくわからんという方も大勢いらっしゃるでしょう。また、最新話(46話)での言動も意味不明、単なる腹いせじゃないかというコメントも散見されました。

本編でも説明されているように、聖來は厚生官僚で、厚生省から警察庁へ、さらに警察庁から道警へと二重の出向状態にあります。

 

他省庁のキャリアが警察庁に出向し、地方警察本部の本部長や警務部長を務めるケースは現実に結構あり,出向元としては財務省か外務省が多いようです。厚労省はあまり聞きませんし,本部長や警務部長以外の部長に充てるという話も聞いたことありません。

 

そもそも「保安部」自体が架空の部署で、作中当時現実に存在した防犯部と併存しているのか、併存しているとすれば、業務をどのように割り振っているのかというところまでは考えていなかったりします。

 

もっとも,本作の「保安部」は薬物事犯を扱っており,また厚生省には麻薬取締部があります。そうなると厚生官僚が出向してくるということも,まったくありえなくはないのかなと思って,このようなキャラクター設計となりました。

 

2.組織の中の異物

聖來について「あずさの別種じゃないか?」というコメントをした方がいらっしゃいました。それがどういう意味なのかちょっと私にはわからなかったんですけど、聖來とタイプの似たキャラを本編から探すとすれば、桃華じゃないですかね。警察本部の最高幹部でありながら、どちらも異物感があります。

 

最新話のコメントで「警察業界は……上層部の官僚たちは足の引っ張り合いが日常で、下の警官が常にその迷惑をこうむ(っている)」というのがありました。

そうした映画やドラマによく出てきそうなステレオタイプな悪玉的官僚は、現実の官僚機構の中ではあまり見出せないのですが、本作においては,桃華がそれに近いのかも。「足の引っ張り合い」は別にしませんけど,「下の警官」に迷惑がられているのは間違いないので。

もっとも、桃華は自らの言動が原因で現場に煙たがられているという意識は微塵もなくて、むしろ現場の人々も自分の考えに共感してくれているであろうと思っているふしさえあります(井持署長も似たようなこと考えていましたが、早苗にバッサリと切り捨てられてましたね)。

28話より

 

話を聖來に戻しますが,彼女が一番怒っているのは道警保安部の覚醒剤密輸事件についてです。上述のとおり,薬物事犯は厚生省の所管事項でもあります。道警がそういう悪行を働いていたことが(内部的に)明らかになったにもかかわらず、あずさをはじめ、道警の幹部たちはそれを隠蔽しようとしている。これは警察と同様に薬物事犯を取締る官庁に籍を置く聖來にとって許し難いわけです。

もっとも、許し難いといっても、聖來としては別に見て見ぬふりをしてもいいのですが、あえてそうせずに厳しい調査を行わせ、未央に対しても強圧的な事情聴取を行ったのは、聖來自身の,曲がったことを嫌う直情的な性格が原因です。
ゆえに桃華と似ているのですが、聖來の場合、桃華ほど周りが見えていなくないというのはあります。つまり周りに迷惑がられていることは重々承知しています。だけど、そんなことは聖來にとってどうでもいい。だって、余所者ですからね。「迷惑?自業自得でしょ?」という意識です。

本編でしばしばなされるコメントに「オホマスの警察幹部は市民感覚・市民目線に欠けすぎ」というのがありますが、聖來はその市民感覚・市民目線に近いものを持っているといえるでしょう。組織外の人間であるからこそ、組織固有の利益に無関心で、組織の腐敗には嫌悪感しかない。

一般人が警察のみならず行政機構全般に向けがちな、冷酷な視線ですね。


あずさにとってみれば、聖來みたいな人は危なっかしくてしょうがありません。通常時であれば別にほっとけばいいんですが、本編における特殊な状況下において、聖來はまさに危険な異分子、モンスターです。だから会議からパージした。45話終盤の会議は、覚醒剤密輸事件の後始末が議題でしたから、そこにいられちゃ困るんです。

(それが違法であるとか、もっと他にやり方があるだろうというコメントも頂きました。違法とは考えにくいですが、ここまでダイレクトな手法に訴える必要はなかったかもしれません。しかし、尺との関係であえて目をつむり、描写を単純にしました)

別に、個人的にそりが合わないとか、いじめ目的で追い払ったわけではありません。

もちろん、聖來もあずさの意図はきちんと理解しています。学歴を馬鹿にされたから仕返しをしてやろうみたいな稚拙な理由ではなく、道警の悪行を暴き立てたいという動機で、最新話における行動に至ったというわけですね。


3.地検へGO!!

聖來がなぜ検察へ走ったかということですが、検察が密輸事件の存在を知り、形式的とはいえ捜査に着手していたということを聖來も知っていたからです。何せ戸塚が自殺した現場に藍子が居合わせていましたから。

これも尺との関係で端折っていますが、最新話の聖來VSゆかりのシーンは、「捜査してるのよね?」「ええまあ」「じゃあ私の立場で入手できる証拠も提供するから頑張って!」「いえ、でも(政治的な事情で)無理そうなんですよね……」「なんですってどういうことよ!」的なやり取りに引続くものだったと考えられます。
「あずさに仕返しするのが目的なら、あずさの敵を探すべき」というコメントもありましたが、聖來の目的はあずさへの仕返しではなく、密輸事件を公にし、その犯人を検挙することです。検察に接触することは間違っていません。学生時代の人脈を糸口にすることも、官僚としてごく普通の発想です。怒りのあまり我を忘れて無意味な奔走をしているのではなく、合理的手法で戦っています。

しかし真正面から追及を促しても、反応が悪い。そこで、ゆかりの功名心を刺激してみた。このへんはまあ、リアリティに欠けると言えば欠けるんですが、フィクションではありがちな展開なのでまあいいかなと。伏線も随分前から張っていましたしね。

 

34話より

 

つまりこれです。釧路地検のお膝元で仕事をしているとはいえ、末端の捜査員に過ぎない楓にすら、上昇志向の強さを知られているくらいの人ですから……。


第三 直接証拠と情況(状況)証拠

ところで、やや話は逸れますが聖來の台詞にあった「情況証拠」について。

ほとんどの人が誤解していそうな話なので,簡単に解説します。

なお「情況証拠」とも「状況証拠」とも書きますけど,「状況証拠」の方が通りがよいので,以降こちらを用います。

 

古くは和歌山カレー事件、最近だと首都圏連続不審死事件に関する報道で,

 「状況証拠しかないものを有罪にできるのか?」

……と,いうことがよく言われていました。

 

もちろんできるんですけども,

 「直接証拠となる物証もなしに有罪判決を出すのは危険じゃないか」とか,

 「状況証拠だけでは決め手に欠ける,端的に捜査不足だ」

……などと考える方がほとんどのような気がします。

 

図表 直接証拠と状況証拠

 

言葉の定義として「直接証拠」というのは、「主要事実を直接に証明する証拠」です。

そして「主要事実」というのは「訴訟において証明されるべき窮極の事実」。

殺人事件においては犯罪事実がそれにあたります。

たとえば「XがVを刺殺した」という事実です。

 

これに対し「間接事実を証明する証拠」間接証拠といいます。

間接事実とは「主要事実を推認させる一定の事実」をいいます。

つまり「XがVを刺殺した」という事実を推認させる事実です。

 

細部に踏み込むとキリがないので端的に説明しますと……,

「XがVを刺殺した」事実を証明する直接証拠に当たるのは,たとえば,

 「Xの自白」

 「XがVを刺殺するのを見たという目撃証言」

などです。

 

他方,

 「XとVが二人で犯行現場のホテルに入った」

 「柄にXの指紋が,刃にVの血液が付着した包丁がAの死体の傍に落ちていた」

 「Vの膣内からXの精液が検出された」

 「Xが血まみれの姿で犯行現場から逃げ去った」

などの事実が間接事実であり,それらを証明する,防犯カメラの映像,凶器の現物,鑑識官の証言,逃げ去るXを目撃した者の証言などが間接証拠となります。

これらの間接事実は「XがVを刺殺した」という事実を推認させます

そして,状況証拠」とは,間接事実を指すマスコミ用語です。

 

さて,ここで考えてみましょう。

 

殺人事件において,犯行の一部始終を目撃した人が現れるなんて,結構稀ですよね。

目撃者がおらず,犯人の自白も取れなければ,直接証拠は存在しないことになりますが,上に挙げたような間接事実(状況証拠)が揃っていたらどうでしょう?

Xが犯人としか思えなくないですか?

しかしXが頑として自白せず,目撃者も見つからなければ,直接証拠はないということになります。

だから有罪にできない?

それって結構キツくないですか?

 

つまり,直接証拠か状況証拠かというのは,それが強い証拠か,弱い証拠かというような話ではなく,どちらか一方しかないなら有罪にできないなんてことはありません。

「直接証拠がなければ有罪にできない」を「自白がなければ有罪にできない」と言い換えたら,結構ギョッとなるでしょ?

直接証拠の過大評価は,自白偏重主義に通じかねません。

 

また「直接証拠=物証」ではありません。

自白も,目撃証言も,いずれも「物証」ではありませんよね?

では,物証が直接証拠になることはないのかというと,これは「ない」,すなわち直接証拠はすべて供述証拠(証言)という説もありますが,一般的には,たとえば犯行の一部始終が録画された防犯カメラの映像は直接証拠たりうると考えられています。

 

以上を踏まえて,本編の考察に戻りますと……,

 

46話22:30

 

聖來の「情況証拠(状況証拠)で良ければ、まだいくらでも提供してあげる」という台詞に対し、状況証拠しか持って来れないのに検察を動かそうとするなんて無理だろう的なコメントがありました。

状況証拠でダメなら,直接証拠。

「春香や亜美が本部長を失脚させ,道警を支配下に置くために密輸事件を利用したこと」を証明する「直接証拠」とは?

春香や亜美の自白ですね。

そんなもん取れるわけないし,それがなきゃ捜査ができないなんて言い出したら,警察も検察もお前らなんなんだよってことになってしまいます。

というわけで、聖來は別におかしなことを言ってるわけではないんです。


代々木さんの身の上話は、ゆかりが美希にさんざん調べろと言っていたことで、聖來はそれを持ってきたんです。ゆかりの闘争本能を刺激する重大な要因にはなった筈です。

第四 結び

さて、今回はここまでですね。
色々と書きたいテーマはあるのですが、書きたいテーマと書くべきテーマはまた別と思いますので、そのあたりはよく考えます。

・伊織は“有能”なのか
・“事件前”の千早、“事件後”の千早
・“正義の刑事”とは誰
フェミニズムとオホマス

パッと思い浮かぶのはこんなところ……。
とはいえ、次回もまた、47話アップ後の本編解説になりそうですが。

オホマスを読む 第一回

みなさんこんにちは。
ブロマガでははじめましてのバニラマリンです。
ここをご覧いただいてる方はご存じだと思うんですが、
こういうものを作って連載しています。

アイマス×オホーツクに消ゆ】デコのおまわりさん
愛称:オホマス

www.nicovideo.jp

ところで私はSNSの類にはまったく疎くて、ブログとか書くのは生まれて初めてなんです。フェイスブックとかツイッターとかにも無縁です。携帯はガラケーです。

ここで何をしようかというと、オホマスの解説。
投コメや解説動画ではどうしても紙幅に制限がありますからね。
そろそろ最終回も近くなって参りましたので、色々解説をしていこうと。
勿論、それに限らず、ご要望があればわりと何でも書きます。

で、とりあえず人物解説というか、考察をしてみようかなと。
最新話(45話)のコメントに、大百科に人物一覧を作ってくれというのがありました。
そういうのあると、私も助かりますね。

まずは、今回叩かれまくって、クズ、極悪人、冷血動物扱いのあずささんから。


いや、これはもう千早やしぶりん以上ですね。
仕方ないと言えば仕方ないんですが、一応私の見解も書いておきますね。
勿論、それに納得するかしないかは皆さんの自由で、押し付ける気はないのですが、
本編でのあんまりにも罵倒的なコメントは控えて頂けるとありがたい、かも。
胃痛動画とか言われて苦笑の対象になっているオホマスですが、
ほんとに胃が痛くなって、もう見ないぞって人も出てくるかもしれないので……。

ちなみに、45話までのネタバレががっつり含まれていますので、
お読みいただく際にはご注意の程をお願い致します。












さて、そもそもあずさが未央に対して何をしたかということですが、過去実際にあった不祥事について、当時の責任者として調査を行えと命じただけなんですよね。

 

43話7:04

ところが未央はそれを隠蔽工作への加担であるとか、昔の部下を売る所業だと理解しました。

そして,どちらも自分にはできないと言いたいようですが……。

 

不祥事を隠蔽するのが嫌だというなら,当該不祥事に関与した部下には犠牲になってもらうより他ないでしょうし,逆に,部下を逮捕や処分等の目に遭わせたくないのなら,彼らの関与した不祥事は隠蔽するより他ないんじゃないですかね……。

そう考えると未央の言ってることは,わけがわかりません。

不正を行う上司を相手に正々堂々対決している……とかじゃなく,突然過去の「悪事」を追及されて混乱し,わけがわからないことを言っているだけのような気がします。

 

そもそもの道理からいえば、あずさは未央を更迭し、停職・免職等の処分を行うべきでしょう。覚醒剤の密輸に直接関与はしていなかったとしても、課長補佐でありながら意図的に看過したわけですから、処分事由には十分該当します。

それにもかかわらず未央に調査を命じて、未央自身の不利にならないような結論に持っていってもいいよと言っているのですから、かなり温情的です。

ところが未央は、まるであずさへの当てつけであるかのようなタイミングで自殺を図ります。あずさが『この恩知らず!』という気持ちになるのもやむをえないでしょう。実際、マスコミ対応に追われるなどの迷惑も被っていますしね。

絶望し、自殺を図った人間に対してあの態度・物言いは冷酷すぎるとのコメントも多かったですが、あずさにとっての未央は大勢の部下の一人に過ぎません。
しかも、あずさから見れば未央は悪人そのものです。戸塚や井村を止めようとしたんだという言い分も責任逃れのための弁解にしか聞こえないでしょうし、事情をすべて知りながら、自らの出世と保身のために犯罪を看過し、見事に警視・署長の座を射止めた卑劣な人間と見られても仕方がありません。

聖來が未央に事情聴取を行った際も「あんたも実はカネ受け取ってたんじゃないの?」的な態度を取っていましたが,客観的にはそんな風にしか見えないでしょう。

別に親しいわけでも特別な義理があるわけでもない一介の「悪徳警官」が自殺したところで,まあ,普通の人ならそんな悲嘆に暮れたりしないでしょう。

あずさはその点別に普通の人ですから,そんな悲嘆に暮れたりしないってだけですよ。

 

あずさのやっていることはトラブルシューティングです。

私服を肥やしたり,他人を不当に陥れようとしているわけでもなく,大組織のナンバー2として,組織防衛に努めているだけです。むろんそこには大なり小なりの不正や違法が伴ってはいますが,高級官僚の行動としてそう突飛というわけでもありません。いかなる悪も許さぬ正義の味方というわけではありませんが,さりとて極悪人とまではいえないでしょう。

 

また,意外に人情味もあります。

田崎が亜美に罵倒されるシーンで、あずさはずっと沈痛な表情を浮かべていました。あずさにとって田崎は道理のわからない軽蔑すべき上役であり、彼を失脚させる工作にあずさ自身も加担していますが,ああも惨めに追い込まれる姿を目の当たりにすると、憐憫の情を禁じ得なかったんでしょう。

 

 


さて、今日のところはこんな感じです。
次に書きたいのは、琴歌ですね。

彼女も私が意図していたのと異なる評価を受けてかなり悪く言われてるんですよね。ザ・暴力警部。北見の喧嘩番長

 


当初はわりと常識人寄りとか言われてたんだけど……。
包丁はあくまでイメージですので(たぶんね)。